開催日時： 2007年4月22日（日）14時
会場： ICC 5F ギャラリーA

InterCommunication – ICC Report
この日は，メディア×アートの創造的実践にアート，プログラミング，アクティヴィズム，メディア・アート・センターと，異なるスタンスで関わりながら，共通項として領域を超えたコラボレーションを軸にしているパネリストにより構成した．
ダムタイプのメンバーでもある高谷は，技術の進歩と創造の展開について事例を紹介しながら自らの活動について語った．映像においては，初のソロ作品《frost frames》（1998）でデジタルにシフトし，コンピュータからの直接送出や解像度とフレーム・レートの設定が，《Voyage》(2004)では高解像度出力が実現する．一貫して志向されてきた照明，映像，音の同期だが，新作《LIFE – fluid, invisible, inaudible …》（坂本龍一との共作インスタレーション，山口情報芸術センター）では映像，音のランダム・アクスが採用されている．高谷は，コミュニケーション・ツールとしてのアートと技術的な美の発見とのバランスが重要だと述べているが，ダムタイプおよび高谷の活動が，アートから技術に向けた創造的格闘の軌跡であることが今回あらためて確認された．
processingの共同設計者でありUCLA准教授でもあるケイシー・リースは，2002年にベン・フライとともに開始したprocessingの特徴，意味，可能性を事例とともに紹介した．読むことに加え，書くというソフトウェアのリテラシーを支援すること，アーティストの使用によって技術者とは違った発想の創造物が生まれうること．コミュニケーションを介し創造物の共有がなされ，世界各地の教育機関で採用されているprocessingだが，今年刊行のフライとの共著により新たな広がりを見せるだろう．また今回とりわけ，外部機器に接続されることでスクリーンを超えて空間的な展開を生み出しはじめている動向が感じられた．
イタリアの『neural』誌エクゼクティヴ・エディターのルドヴィーコは，スパムを「コミュニケーションの現象」であるとし，ユーザーをくまなく狙い麻痺状態へ陥れるオンライン・マーケティングに対し，アートが介入し先見的なヴィジョンを示す可能性について自ら関わるプロジェクトに言及しつつ語った．スパムの状況分析に続き「オンライン資本主義の絶対的なアイコン」であるグーグルのシステムに介入するプロジェクト《GWEI》（2005）「*1」，またAmazonの「なか見! 検索」を利用し本のデータを丸ごと乗っ取る《Amazon.noir》（2006）[*2]が紹介された．オンライン・マーケティングが席巻する現在，ユーザーは，否が応でも政治的な側面を被わざるをえないという，ルドヴィーコの切実な表明といえる．
山口情報芸術センターのアーティスティック・ディレクターである阿部はまず，人間中心的ではない「セカンド・ネイチャー」[*3]という概念を挙げ，コンピュータを介することで変容していく私たちの知覚について述べた．このことは，山口情報芸術センターがアートの視覚中心主義から離脱し，サウンド．インスタレーションにフォーカスする理由ともなっている．センターのプロデュースによる三つの事例―カールステン・ニコライの《syn chron》（2006），渋谷慶一郎＋池上高志の《filmmachine》（2006），今秋発表予定のdNAの新作―はいずれもプログラムやデータのプロセスが知覚可能なものとして空間的，時間的にいかに現出可能かを，アートや科学を超えた地平で追及するものといえる．知覚不可能なものの知覚化，ヴァーチャルからフィジカルへ，脱中心性，既存の概念の変容（「知」「美」「アート」など）……．プレゼンテーションを通して見えてきたこれらのキーワードを口火に展開したディスカッションで，とりわけ際立ったのが，ヴァーチャルとフィジカルなものの関係のとらえ方である．両者が分断できない前提で，情報を知覚可能なものへインターフェイシングしようとする阿部に対し，ルドヴィーコは両者を対立的なものと見なしたうえでフィジカルな実体性を重視，リースからもそれに賛同する方向が示された．
このセッションを通し，メディア x アートの未来へ向けて，私たちの知覚や身体，感情がいかに情報プロセスと関係しうるかを筆頭に，いくつかの論点が浮上しはじめたように思う．［四方幸子］
出典：『季刊 InterCommunication』No.61（NTT出版，2007）

特別シンポジウム「メディア×アートの創造と未来」第二回