開催日時： 2006年9月17日（日）15時
会場： ICC 5F ロビー

InterCommunication – ICC Report
シンポジウムは，カタログ寄稿者の池上高志（複雑系科学），佐藤俊樹（社会学）の両氏にアーティストのムクル・パテル（ambientTV.NET）を加えて行なわれた．まず企画者である筆者より「コネクティング・ワールド」について手短かに触れた後，各パネリストのプレゼンテーションに移った．
パテルは，世界中に遍在する監視システムを正当化するかのように安全性を強調するキャッチコピーを紹介しながら，「誰があなたを監視しているのか？」と問いかけた．そしてそのような状況に介入する実践として，ambientTV.NETのもう一人のメンバー，マヌ・ルクシュによる《Faceless》およびambientTV.NETの《Myriorama》が紹介された．前者はロンドン中に張り巡らされた監視カメラに自ら映り込み，「データ保護法」に基づいて各設置者に映像を請求，交渉のプロセスおよび入手した素材で制作された映像を作品とするもの（タイトルは，映像を入手した際，肖像権保護のため他人の顔が黒く塗られていることに由来），後者は，イタロ・カルヴィーノの小説『A King Listens』を現代のデジタル監視に置き換えた即興ダンス・パフォーマンスである．
池上は，時間の進行を矢がランダムに交錯する図で説明しながら，出展作品の《事の次第》（フィッシュリ＆ヴァイス）を「時間的なコネクション」として紹介，「コネクトできないものをコネクトするテクスチャーのネットワーク」であるとした．続いてジョン・ケージの《ONE》と渋谷慶一郎と池上による新作インスタレーション《Filmachine》をそれぞれ「弱連結」「強連結」のテクスチャー・ネットワークとした上で，カオス理論における「クラス4」に言及，テクスチャーのネットワークによって支えられ揺らぎ（＝自律性）を潜ませることでテクスチャーが有機的に結びつけられると述べた．
ゆるやかな語り口の佐藤はまず，「コミュニケーション」「コネクティヴ」が社会科学にとって扱いにくい概念であり，正統派の社会科学（アトミズム的アプローチ）が語りえないものに貼る「札」であると述べた．例としてレヴィ＝ストロースが近親相姦タブーの説明のために「コミュニケーション」を投入したことを挙げ，そこでは後続する帰結からの行為の意味が事後的に成立するという．その上で，「そもそもコミュニケーション・システムがありうるか」という問いから出発することを提起，それを前提としない例（たとえば仏教）からではなく，世界という境界があることを確認しつつ，コネクトしている中に新たな分裂が出現しているか否かを検討することを提案する．コミュニケーション・システム論の提唱者ニクラス・ルーマンは，90年代半ばに「外」を密輸入するのを止めたというが，実際世界で起こっているのは戦争（内外の判別を前提）からテロへの移行（内か外か判別できない状態）だという．
人や機械がコネクトされネットワーク化された社会においては，政府と非政府，政府と個人などの関係も以前のような対立項として捉えることができない．誰が世界を見ているのか，というパテルの問いは，誰がいかに世界を記述するのかという池上や佐藤のアプローチへと接続される．佐藤は，政府がオープンであることを前提に人々の安全への欲望を喚起し，それによって権力装置を人々の内側から作動させると述べている．そのような中，池上はいささか挑発的に，「オープン」が予測されないコネクトが起こりうるポテンシャルであり，そのためにシステムが本質的にオープンである必要性を強調した．例として挙げられた「ロボコン」や免疫システムでは，ルールというフレームの外（免疫システムでは，自己／他者が分別不能な地平），へと跳躍することでつながり方が変わることこそが重要になるという．
監視する側とされる側が入り組んでいる只中での境界の撹乱（ambientTV.NET），フレーム外へと逸脱することで，異なるテクスチャーのネットワークを創発させていくオープンネス（池上），システムや世界の境界がありながら，それらを逸脱してもつねに立ち上がるシステムのシステム性，世界の世界性（佐藤）……．各自の立場や視点が異なり紆余曲折の多いディスカッションであったが，境界外に流出しつづける運動と同時に更新されていく世界やシステム，その可能性とジレンマが「コネクティング・ワールド」をとりまく問題系として浮き彫りにされたように思う．［四方幸子］
出典：『季刊 InterCommunication』No.59（NTT出版，2006）

コネクティング・ワールド：創造的コミュニケーションに向けてシンポジウム「コネクティング・ワールド」

コネクティング・ワールド：創造的コミュニケーションに向けて
シンポジウム「コネクティング・ワールド」