日時： 2005年11月5日（土）14時
会場： ICC 5F ロビー

InterCommunication – ICC Report:
ICCでは1997年のオープニング企画展示「海市」以来，情報技術と建築の関係性を議論する場を多く設けてきた．本シンポジウムは，2000年代に入り急速に進んできた社会の情報化を受けて，建築家の渡辺誠，情報空間デザイナーの中西泰人と本江正茂，ヴァーチャル・リアリティ研究者の廣瀬通孝，情報空間科学者の田中浩也，そして建築家の市川創太がパネリストとして参加し，当初参加予定だった磯崎新に代わって建築家の入江経一がモデレーターを務めた．

上記のパネリストの順番は，それぞれの出力形態の中心点が実世界環境から情報空間へと緩やかに移行していることを反映している．そこでは各発表者から自然のアルゴリズム化，コミュニケーションの前景化，VR研究の系譜，モジュール型建築，そして空間計測装置としての建築といった観点がプレゼンテーションされた．

入江の進行による討議では，より実践に関わる議論が展開された．渡辺は生態系をデザインするという田中の見解を興味深いとしながらも，人間は「淘汰されない社会」を設計しなくてはならないとした．田中は建築と情報技術の時間感覚の差異を指摘し，建築は半世紀スパンで語られるが情報技術は10年ももたず，よって両者の長期的な相補関係の可能性を改めて問う姿勢を見せた．中西は情報技術を目的主義的に利用する設計行為があれば建築家というフレームが不要であることを指摘し，廣瀬は「ただし情報には意味論を付与するアーキテクトが不在である」と反証した．また渡辺は，「結局のところ物理建築においても市場性以外の評価基準が主導権を握ることはないのか」という疑問を呈しながら，情報空間が階層構造化せずリゾーム状のネットワーク性を保つという自律性の重要さを訴えかけた．一方でVR研究の見地から廣瀬は，映像が実体に取って代わるのかという命題の困難さを指摘しながらも，代替不可能なものに直面したときに人間の感覚自体がシフトしていく可能性について言及した．それを受けて田中は実世界と情報空間を結ぶ「途切れることのない知覚」に対して，果たしてそのインターフェイスがどれだけの多様性を生み出せるのか，ヴァナキュラーな価値が創出されるのかを問わなければ情報建築というフレームそのものの存続が危ぶまれることを指摘した．最後に，渡辺が市川に情報空間固有の革新性とは何であるかを問いかけ，市川が，ネットワーク上の多様な支（視）点同士が衝突ではなく相互依存しながら構造化していくというプロセスに，新しい建築概念を見て取ろうとしていると発言した．

このシンポジウムは入江の優れた問題提議によって活発な議論が展開され，多くの具体的な案件が提出されたように思う．今後とも長期的にこのような意見交換の場をICCで提供していくことによって，私たちの情報化社会に対する考察が深まる契機となることを願う．［ドミニク・チェン］

出典：『季刊 InterCommunication』No.56（NTT出版，2006）

アート＆テクノロジーの過去と未来シンポジウム「21世紀の［情報＋建築］に向けて」

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