日時： 2005年10月23日（日）14時
会場： ICC 5F ロビー

InterCommunication – ICC Report:
今ではごく一般的な表現メディアとなっているヴィデオ・アートは，日本においては1970年代のはじめに多くのアーティストの関心を引きつけ，1980年代にはまとまったジャンルとしての地位を築いてきたように見える．しかし，その経緯を注意深く眺めると，欧米で試みられたことがそのまま輸入され，広く浸透したわけではないことがわかる．ひとつのコミュニケーション・メディアが表現手段として伝播するときには，それぞれの社会に応じたかたちに変奏し，多様な使われ方をするものである．

1970年代からヴィデオ・アートに関わり，その後ICCも含めメディア・アートの展開に大きく関わってきた森岡祥倫をモデレーターに，「ビデオひろば」のメンバーだった小林はくどう，映像だけにとどまらず幅広くコミュニケーション・メディアと関わる作品を制作している八谷和彦，さらに実験映画からヴィデオ・アートまで日本の映像史の水脈をたどる研究をしている西村智弘によって，この年代の映像を中心とした都市や美術表現の変化が語られた．

話題の中心となったのは，当事者としてヴィデオ・アートと関わってきた小林が実践してきた内容であった．1972年にソニービルで行なわれた「ビデオコミュニケーション／DO IT YOURSELF kit」展を開催し，「ビデオひろば」を結成した以降も，自らが住む国立市で，住民がヴィデオを使って意見を伝えていく活動を継続させてきたことは，戦後美術史の中ではなかなか紹介されてこなかったと言えるだろう．それは，欧米を中心に広がった反権力的な性格を持つオルタナティヴ・メディアとも違うものであり，表現内容だけではなく，ヴィデオの撮影や制作を通して地域のコミュニティが行政と，あるいはお互いの関係を変化させていくような契機をもたらす点で独特のものだったように思えた．それは，だいぶ世代が若い八谷の作品とも通じる融和的な手法によるメディアの利用だった点が興味深く感じられた．　それは，じつは作品とはもはや言えないのかもしれないが，社会福祉や政治の領域などとも重なり合いながら行なわれるので，その輪郭は明瞭ではなくなる．あるいは，アーティストという固有名に収斂していくものでもなくなり，専門家と一般の人とのあいだの差もなくなっていく．新しいメディアの可能性を模索していく過程で，このような方法が見出されていたことに驚いた．森岡が指摘するように，その後80年代には，テレビ・モニターが単なる表現のメディアではなく，都市のディスプレイなどにまで浸透していく時代が現われる．あらゆるものを飲み込んでいくような都市の拡大や発展に対して，ただ距離を置いて批評を加えるのではなく，そこに積極的に何らかの関与をしていこうとする考えがヴィデオの可能性をここまで多様化させていったのではないだろうか．［住友文彦］

出典：『季刊 InterCommunication』No.56（NTT出版，2006）

アート＆テクノロジーの過去と未来トーク・イヴェント「非決定という態度：1970-80年代のヴィデオアート」

アート＆テクノロジーの過去と未来
トーク・イヴェント「非決定という態度：1970-80年代のヴィデオアート」