日時： 2005年3月5日（土）14時
会場： ICC 5F ロビー
参加者:アレクセイ・シュルギン，ティルマン・バウムゲルテル，ヘアート・ロフィンク，四方幸子

InterCommunication – ICC Report
「アート・ミーツ・メディア」展の一部として端末によるインスタレーション形式で展開された「メディア・オンライン」は，90年代後半以降のメディア・アートを大きく変えたオンライン・メディアによる作品やプロジェクトを紹介するものである．
「ネット・アート」，「ソフトウェア・アート」，「コミュニティ」という3つのカテゴリーで，筆者監修のもとそれぞれティルマン・バウムゲルテル（メディア批評家／キュレーター，マニラ／ベルリン），アレクセイ・シュルギン（アーティスト／キュレーター／ミュージシャン，モスクワ），ヘアート・ロフィンク（メディア理論家／ネット文化研究所，アムステルダム）にセレクションを依頼，計90のプロジェクトが紹介された．
「メディア・オンライン・シンポジウム」は，この3名をパネリストに迎え，アーティスト，アクティヴィスト，ハッカーたちによって形成されてきたインディペンデントな実験やコミュニケーション，コラボレーションの場としてのネット文化の10年間の変遷を現時点であらためて振り返り，今後のあり方を検討するものとして開催された（まれにみる大雪でアムステルダムからの便が欠航したため，ロフィンクは遠隔的に参加）．
バウムゲルテルは，彼のネット・アートに対する関わりや94年から現在にいたる代表的な作品の事例を挙げながら，ネット・アートがネット・スペシフィック（メディア言及的），つまりフォルマリスト的，モダニスト的でありながら，素材がインターネットやコンピュータであるがゆえにポストモダニズム的特性を獲得している点を指摘，加えてネット・アート，ソフトウェア・アート，ゲーム・アートにおける素材（インターネット）および批評的アプローチという共通点を確認しつつも，ネット・アートが他の二つの先を行くと述べている．
ソフトウェア・アート・フェスティヴァルRead_Meやソフトウェアを集めたサイトrunme.orgをオルガ・ゴリウノヴァと共同主宰するシュルギンは，ソフトウェア・アートを「素材が形式的な命令コードからなり，ソフトウェアという文化的概念に取り組んでいるようなアート，もしくはそのどちらかであるようなアート」（フロリアン・クラマー），アーティスティック・ソフトウェアを「伝統的なプラグマティックなソフトと異なる目的をもって創造されるソフトウェア」（ゴリウノヴァ，シュルギン）とまず定義し，runme.orgからソフトウェア作品を紹介しつつ話を展開した．
90年代後半にネット・アーティストとして活躍し，2000年以降にはソフトウェア・アートという枠組でオンライン・メディアの現場にかかわっているシュルギンは，ネット・アートがネット技術の黎明期におけるものであることを述べ（シュルギンはネット・アートを，その多くがソフトウェア主導で実現されてきたものとしている），ソフトウェア・アート，オンライン・コミュニティ，ネット・アクティヴィズムを後続的な展開として位置づけた．ネット技術の高度化によりデータベース化や管理化がますます顕著になっている状況をソフトウェア・プラグマティズムとし，これら政治や市場中心の管理方向に対する批評的介入・実践としてのソフトウェア・アートの重要性を述べている．シュルギンの選ぶ「ソフトウェア・アート」にゲーム・アートが含まれないというバウムゲルテルの指摘をはじめとする両者の見解の違い，同じくバウムゲルテルが問題提起をしようとした作品保存の問題など，オンライン・メディアの表現や歴史が今まさに現在進行形で広く検討されるものであることが，あらためて浮き彫りにされたと言える．
昨年よりネット文化研究所（アムステルダム）に所属するロフィンクは，「ヴァーチュアル・コミュニティからソーシャル・ソフトウェアへ」と題したレクチャーにおいて，ドットコム・バブルの崩壊や2001年9月11日の同時多発テロを経た現在におけるインターネット上の変化と，現在人々が直面している諸問題について述べた．具体的にはネット人口の増大とともに進む多国籍・多文化化，スパム・メールの増大やオープンなコミュニティ・サイトへのハッキングなどの危機的状況，ソーシャル・ソフトウェアの普及によるクローズドなソーシャル・ネットワークの可能性などがWikipedia，Orkutなどの事例を交えて語られたが，そこにはインターネットのインフラがかつてなかったかたちのコミュニケーションを可能にしたと同時に，オンライン上での政治的現実主義の必要性および信頼関係とその再生産の必要性が緊急のものとして提言されている．
Nettime MLやデジタル・シティ（アムステルダム）など90年代においてヴァーチュアル・コミュニティを推進してきたロフィンクの悲観的にも響くこの発言を受けて，ティルマンやシュルギンは，コミュニティの形成が各自の興味に即した小規模なものである場合，うまく機能していることをDorkbot，micromusicなどの事例を挙げて指摘，ロフィンクもこれに同意している．最後に3名のアプローチを含め所感を述べるなら，ネット・アートやソフトウェア・アートが，広義のネット文化や社会の中で今後他の表現とますます接続されうるであろうこと，しかしアートの機能としての批評性が保持されていく必要性．また10年を経て日常的・大衆的なものとなったオンライン・メディアだが，その技術やインフラが危険とともに同時に可能性も内包することを自覚しつつ，より多くの人々が表現やネットワークを開いていくことを再確認する場となったように思う．［四方幸子］
出典：『季刊 InterCommunication』No.53（NTT出版，2005）

アート・ミ−ツ・メディア：知覚の冒険シンポジウム「メディア・オンライン」

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シンポジウム「メディア・オンライン」