日時： 2003年10月18日（土）14時
会場： ICC 5F ギャラリーA

InterCommunication – ICC Report:
ウェブ上のアーカイヴには二とおりある．一つは，サイトの運営者たちがみずからデータを作成し，アーカイヴ化しているサイト．もう一つは，すでにあるデータを集めてアーカイヴ化しているサイトである．ウェブでは，それぞれが思い思いに活動しているにもかかわらず，それを集めると，一つのまとまったアーカイヴであるかのように検索し情報を引き出すことができる．二種類のアーカイヴのうち後者は特に，ウェブというアーカイヴの特質をよく表わしていると言える．

さらにウェブは，事件を記録し伝えるメディアであるばかりでなく，さまざまな事件が起こる「事件現場」でもある．コミュニケーション・メディアであると同時に行為が生起するメディアでもありうるという点でも，ウェブはほかに類を見ないメディアである．

この日のシンポジウムでは，ウェブというアーカイヴについて，ジャーナリスティックな観点，技術的な側面，さらには法的な角度からそれぞれの専門家を招いて討議した．ウェブでは，ウェブログ（Web log）と呼ばれる形式の個人サイトが力をもってきている．昨年9月に『ネットは新聞を殺すのか』（NTT出版）という刺激的なタイトルの本を出したジャーナリストの湯川鶴章は，「アメリカでは，ウェブログの口コミ能力の高さに目をつけ，新製品の情報についてまずウェブログにリークする企業まで現われている」と言い，「新しい情報を最初に入手し伝えるのが報道機関ではなくウェブログである場合も出てきた」と言う．将来ウェブログとマスメディアのサイトのどちらが有力なメディアになるかについて，ウェブログ・ソフト会社のCEOとニューヨーク・タイムズ・デジタルのCEOが賭けをするといった論争も行なわれているそうだ．

HTMLで記述されている今のウェブは，人間が読むには支障なくても，コンピュータが読みとって情報の再編集や再利用を自動化するのはむずかしい．ウェブの標準化団体「ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム（W3C）」では，「セマンティック・ウェブ」という機械が読めるウェブの開発を進めている．NTTコミュニケーション科学基礎研究所の赤埴淳一は，この次世代のウェブがどのような考えに基づいて生まれ，どこまで進んでいるかの現状と展望を語り，早ければセマンティック・ウェブは3年ほどで一般に利用することができるようになるだろうと述べた．

こうした技術が広まれば，技術的には，ウェブ上のデータを自在に拾い上げ，再利用することが可能になっていくだろう．ただし，そのためにはすでにあるデータ，つまり他人の著作物を利用しやすい社会的な仕組みになっていなければならない．特に著作権は大きな問題になる．デジタル著作物の知的所有権の専門家，成蹊大学法学部の塩澤一洋は，「コンピュータやネットが登場した今では，誰もが著作物を作れるようになっている．作る人と使う人は対立構造にあるのではなくて，作る人こそ使う人である．使いにくいアーカイヴ，使いにくい制度を作ってしまうと困るのは当の作る人たちであり，そうしたことをよく考えて著作権制度やアーカイヴを作っていかなければならない．著作物をプールしておくことに意味があるのではなくて，使われることに意味がある」と言う．

役に立つ情報がネット上にあふれ，それをさらに使いやすくする技術も生まれようとしている．しかし，そうした状況は，既成のメディアや法制度などに軋轢をもたらす．具体例をもとに問題の所在が語られ，解決の糸口はどこにあるかが探られ，相互のディスカッションも活発に行なわれた興味深いシンポジウムだった．［歌田明弘］

出典：『季刊 InterCommunication』No.48（NTT出版，2004）

記録と表現─アーカイヴを作る・使うシンポジウム「ネットワークでつながるアーカイヴの現在」

記録と表現─アーカイヴを作る・使う
シンポジウム「ネットワークでつながるアーカイヴの現在」