日程： 2005年12月4日（日）18時30分
会場： ICC 5F ロビー

InterCommunication – ICC Report:
映像作家・前田真二郎の新作「日々”hibi” 13 full moons」（2005）に触発され、作曲家の三輪眞弘によって構想された《「日々」のための音楽》は、月の運行に従って1年間にわたり撮影された映像にタイミングを合わせ、「蛇居拳算（じゃいけんざん）」の規則に従いライヴとしてマラカスが同期する作品である。この作品を紹介するにあたって、単にマラカス奏者によるライヴを行なうのではなく、ライヴ出演を前提に参加者を公募、三輪による3回にわたる「レクチャー&リハーサル」が行なわれた。

完成している映画に対し、映像に寄り添うサウンド・トラックというかたちをあえてとる三輪と、彼が共振しこの作品の源泉となった前田の作品という、ふだんは表に出ないアーティスト相互の関係に触れること、また三輪の意図を参加者が各自理解したうえで、ライヴという創造の場をともに作っていく試みがこの企画の意図としてあった。三輪にとってはライヴ出演者の初の一般公募であり、意図を説明し了解いただいた。厳密な規則によりマラカスの振り方が決められた三輪の音楽は、1年間にわたり連日各15秒撮影され、順につなげられた前田の映像と一致するようになっている。蛇居拳算によるマラカス演奏は、アルゴリズミックなルールを設定しそれに人間が従うという側面において前田の方法と共通する。そして両者の方法は、そのシステムが人間的な要素を許容し歓迎する点においてもつながっているのである。前田においては、あらかじめ決定された撮影時間やカットの長さという制限に、それまで撮影したものを念頭に行なわれる作者ならではのフレーミングが生かされている。また三輪のライヴにおいては、即興を排除しながらも生身の人間に委ねることにより、間違いや音色、リズムなどさまざまな差異が発動しはじめる。

全回参加を前提とするレクチャー&リハーサルに参加した10名は、大学生、社会人、作曲家などにより構成された。初回には三輪による作品解説、第2回では前田による解説を前半に行ない、後半はこの作品を自ら演奏するためマラカス隊を結成した音楽家・鈴木悦久をアシスタントにマラカス練習が行なわれた。12月3日の最終回には、翌日の本番にそなえ映画全編を通した練習が各人のポジションや移動も含め実施された。3週間にわたる準備期間中、練習後の対話やライヴ現場の視察、自主練習を含め、このプロジェクトは参加者にとって特別な体験となったようである。それは三輪が醸し出す、弛緩と緊張が矛盾なく同居した親密さからもうかがい知れる。

当日ライヴにおいて、マラカス奏者は落ち着いてそれぞれの練習の成果を存分に発揮した。会場全体には、満員の観客とともに通常のライヴとは一味違う独自の空気が終始保たれていた。観客には映像、生のマラカス音、そしてそれらのあいだの自由な往還が許されたが、それがこの作品の印象を映画でもライヴでもなく、抽象・具象のいずれでもないものにしたように思う。前田が三輪を得て、前田と三輪がマラカス奏者を得、そしてライヴの現場で観客を得たことによってはじめて、そして唯一のものとして成立した96分であった。［四方幸子］

出典：『季刊 InterCommunication』No.56（NTT出版、2006）

アート＆テクノロジーの過去と未来ライヴ・パフォーマンス：「《「日々」のための音楽》by 三輪眞弘」

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