ICC

オープン・スペース 2012

無響室

撮影:木奥恵三

無響室は,部屋全体が音の反響を吸収してしまう素材で囲まれています.わたしたちは通常,周囲の空間の広さなどを音の反射によって把握していますが,この空間では,音の反響や反射がないために,自分の位置を空間の中に定めることができません.そのため,無響室内では,空間の中に宙吊りになっているのと同じ状態になります.無響室に入ると圧迫感や不安感などが体験されるのはそのためです.また,その空間の性質を利用して,音を媒介とした聴取者と環境との関係を人工的に作り出す実験などが行なわれています.

アメリカの作曲家ジョン・ケージ(1912-92)は,1951年にハーヴァード大学の無響室で,完全な沈黙を体験しようとしましたが,音から遮断されたはずのケージの耳に聴こえてきたのは「血液の流れる音」と「神経系統の音」という二種類の身体内から発される音でした.それによってケージは,人が生きる限り音はあり続け,「沈黙は存在しない」という認識にいたりました.そこから1952年に,その後の音楽史を塗り替えることになった,まったくの無音の作品《4分33秒》が生み出されたのです.

お知らせ
2012年10月23日(火)より,三原聡一郎+斉田一樹《moids 2.2.1——創発する音響構造》を展示します.
|→ 詳細|