ICC

《streetscape》
2002−
中居伊織
撮影:木奥惠三
白地図の道の上を付属のペンでなぞると,ヘッドフォンから街の音が聴こえてきます.その音は,その地図に示された場所で実際に聴こえていた音です.通りに沿ってペンを動かしていくと,それにつれて聴こえてくる音も変化し,まるで自分がその通りを歩いているかのように感じることができます.また,ふたつある別々の白地図をなぞってみると,それぞれの場所の持つ音の違いを聴くことができます.
ここにある異なるふたつの白地図から聴こえてくる音がそれぞれ違うように,ある場所を音によって記録することで,その場所の情景を映像とはまた違った感覚によって,わたしたちに思い起こさせます.これらの地図から聴こえてくるのは,作家自身が実際に街を歩いて記録された音です.ひとつの白地図は,このICCのある初台周辺のもので,また,もうひとつの白地図は展示の会期中いろいろな場所のものに変わっていきます.それぞれの通りや街から聴こえてくる音を聴き比べることによって,その場所の情景を思い浮かべながら,さまざまな音に囲まれたわたしたちの生活環境とその違いについて考えることもできるでしょう.

作品を《streetscape初台・夜》(2004)から《streetscape 徳重・名古屋芸大駅周辺》(2005)に入れ替えました. この作品は,名古屋芸術大学でワークショップを行なった際に制作されたものです. 《streetscape初台・昼》(2004)は,引き続き展示しています.
中居伊織は,音を媒介にして,見ることではなく聴くことから出来事のもうひとつの側面を取り出す作品を制作している.その作品は,ある場所や,ある個人の一日を音によって記録したり,ある特定の場所の音を時間的に蓄積することによって,場所の特徴や個人の生活時間の相違などの新たな観点を与えるものである.
サウンド
サウンドスケープ(音風景)とは,ランドスケープ(風景)のように,視覚にもとづいた場所のとらえ方に対して,ある場所を特徴づける環境を音によってとらえる考え方です.音は見ることによって得られる情報とは異なる情報をわたしたちに提供してくれます.音によって出来事をとらえ,また,音を操作することによってわたしたちの知覚のありようを変えてしまうような作品は,サウンド・アートと呼ばれています.