ICC



展覧会「アート&テクノロジーの過去と未来」展は,
日本のアーティストたちが試みてきたテクノロジーを使った実験の数々を振り返る企画です.
絵画や彫刻とは違う方法で,常に変化し続ける時間や空間を表現しようとしてきた
アーティストたちの作品を展示しています.
そのうちオリジナルが現存しない田中敦子《作品(ベル)》,時間派《不定形における夢幻》の2点を
展覧会の開催にあわせ,残された当時の資料を参照しながら再制作しました.
ここでは,再制作の過程や,その見どころなどをご紹介します.




写真(左右):渋谷征司














《作品(ベル)》は20個のベルが2メートルの間隔で連続して鳴る作品です. 緻密な計算にもとずいて切り抜いた銅板が貼られた木製円盤(図2)をレコードプレイヤーにのせ,一定の速度で回転させます.観客がスイッチを押すと,円盤上の銅板に電気が流れ,円盤上部に固定された銅芯と接触することで,20個のベルに等間隔に順々に電気が送られ,ベルが鳴るしくみになっています.

 
図1
1955年制作の円盤の試作用図面
図2
2005年再制作の木製円盤と切り抜いた銅板


*銅芯A、Bを木製の円盤の中心点を軸として回転させた時,銅芯A、Bが銅板上の点A',B'にそれぞれ到達するには時間差がある。この時間差を利用して20個のベルが順番に鳴る.




この展覧会の企画を行なった担当学芸員に,再制作によって再現された作品の見どころについて聞いてみました.
「今,私たちの日常を見てみると,便利なソフトウェアがたくさんあるけど,逆にその制約の中でしか作品が作られていないのではないかとも感じます.コンピュータがなかった時代のアーティストは,作品を具体化していくために,その時代に存在したものをうまく流用して作品に用いたりしていました.《作品(ベル)》をとってみても,等間隔にベルを鳴らすことは,今日のソフトウェアを使えば容易に再現できます.でもあえて,当時のターンテーブルの等速回転を利用した手法で作品を再現することで,アーティストたちの創造力を感じてもらえるのではないかと思いました.」

本展覧会では,4Fから5Fの階段に20個のベルが,5F階段を昇ったところにスイッチを設置しています.
ご来館の方は,実際に作品を体験しながら鑑賞していただけます.












作者:田中敦子



オリジナル制作年:1955年



第1回具体美術展で初めて展示される



作品展示場所:4F-5F階段



*詳しい作品解説はこちら



ベルと銅製の芯を20組分ケーブルでつないでいる様子.
写真の銅製の芯が回転する銅板と順々に接触することでベルが鳴る.
5Fから4Fまで階段壁際に20個ベルが配置された.









1962年に共同制作による活動を開始した時間派が,美目画廊での第2回展で発表した作品です.前を通る人が壁に取りつけられた赤外線を遮断すると,照明が点灯し,壁に埋め込んであるマジックミラーで作られたミラーボックスの中に舞う羽毛と,映り込む自分の姿が,反復的に反射し,そのつど違った自分の姿が映し出されるしくみの作品です.



暗所で、羽の舞う様子を確認している担当者と中沢氏
制作は展覧会の1ヶ月前,9月中頃から開始しました.展覧会前日に制作を終えて,試作から完成まで担当したスタッフに,過去の作品を再現することについて聞いてみました.
「当時の作品を撮影したモノクロ写真は残っていましたが,動かした状態の,例えば羽の飛び方,量,色,大きさなどは,現存する資料からではなかなか分かりにくかったんです.そこで,試作品を制作する間に,中沢氏に何度か来て実際に見てもうことにしました.中沢氏の42年前の記憶と作りかけの作品を照らし合わせながら,羽が"ふわっ"と飛ぶ感じを出すため,羽の大きさをより小さくしたり,ミラーボックス上下から出入りする空気量を調節したりしました. 中沢さんから当時の話を聞き,それを手がかりに具体化していく—42年前に中沢さんがぶち当った問題や少しずつ完成に向かう喜びを追体験するかのようでした.」

本展覧会では,5Fラウンジ入り口の壁面に展示中です.
ご来館の方は,実際に作品を体験しながら鑑賞していただけます.









作者:中沢潮(時間派)



オリジナル制作年:1963年



美目画廊,第2回展で初めて展示される



作品展示場所:5Fラウンジ前



*詳しい作品解説はこちら



会期1ヶ月前の9月,まだがらんとしたバックヤードで打ち合わせをする担当者.
ミラーボックスの下から風を拡散させて流し込むためのパドルを作成中の様子.
写真は試作品2点.マジックミラーの透過を調べたり,ミラーボックス内に羽を舞わせるなどのテストを行った.
中沢さんが来るときは疑問点を解決できる大切な時間. スタッフ一同耳を傾ける.