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はじめに
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計画/経緯
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ヴェネツィアビエンナーレ/海市計画コンセプトパネル
展覧会について(会場構成




1. プロトタイプ
2. シグネチャーズ
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4. インターネット
ウェブページを通じた展覧会への参加
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参加作家
カタログ
 
1997年4月19日 〜 7月13日 [終了しました.] ギャラリーA





渡辺真理氏の「連歌」 4月11日付け


港区海岸という土地に引っ越してきました.4月6日の日曜日に越してきたばかりなので,段ボール箱をかきわけながら,やっとのことで文章をしたためています.
 海岸という地名さながら,ここは海から100mもはなれていないところです.この部屋からもレインボーブリッジや対岸の某有名建築家の設計になる某テレビ局の本社ビルをのぞむことができますが,風景を支配しているのは平滑な水面です.
 巨きな水面というのはなぜか人間に不思議な安心感をあたえます.フランス語では海と母とが同音であるとうたった詩人がいましたが,それに対する古くさいという非難が至極もっともなものであるとしても,ここで実感されるものはまさしくそういった情感に他なりません.鏡のような水面を眺めていたり,そこを思いのほかひんぱんに行き交う船舶を見ているだけでこころなごむのがなぜだかはよくわかりませんが,そのひとつにはもしかすると「運動速度」というファクターがあるのかもしれません.というのは,ぼくたちのオフィスのはいっているこの建物は海と高速道路に面したふたつのブロックから構成されているのですが,海側と高速道路側とは全く異なった印象を受けるからです.海側ではごくおだやかな速度と密度で運動が行なわれているのに対して,高速道路側はそれが羽田空港に直結している幹線道路であることもあって,早朝から深夜までおびただしいい車両が行き交っています.それはこの建物の設計者である有能な若手建築家のいうように,新しくごく魅力的な都市のランドスケープなのかも知れません.夜間に連続するヘッドライトが建物のガラスブロックの壁面にえがく光の帯などまさにそういった新しい都市の美学を実感させるものです.
 ところが困ったことに,人間の感性の許容力には限界があるようで,新しさと速度のもたらす快感は,海の快感とはだいぶ異なった,刺激的ではあるけれど,ひとを疲労させる快感であるようなのです.

 ぼくたちは新しい都市づくりの可能性についてずっと議論を継続しているわけですが,その都市は,いままでにも何度か引用されているように,ほんとうに「ヴェネツィア」の再生となりうるのでしょうか.
 ぼくの目の前に広がる臨海副都心も埋め立て地であることにはかわりありません.ぼくたちのめざしている都市は「ヴェネツィア」であって「臨海副都心」でないのでしょうか.
 あるいはそのどちらでもないのでしょうか.
 ぼくは,ぼくたち12人の作業はひとつの「コラージュ・シティ」の計画ではないかと思っているのですが,それが,12人が選出された時点でほぼ自動的に達成されるといった類の,予定調和的世界の実践であると楽観視できるような脳天気な状況にないということは,すでに12人の共通認識となっているようで・・だからこの連歌のエクササイズがはじまったのですよね・・それなら話は早い.「コラ−ジュ・シティ」には「アクシデント」は不可欠なのですから.

 ここ何回か続いてきたテーマから離れて,ぼくは「水」に戻りたいと思います(その主な理由ははじめに述べたような他愛のないものなのですが). 水というと思い出されるのが"immediacy"です.これはご承知のようにゴードン・カレンの「タウンスケープ」の中の彼一流の用語のひとつなのですが,自然環境との視覚的な近接性の重要性を説明するのには現在でも適切な語彙ではないかと思います.
 この立場からすると,たとえば岡崎さんの「洗面器」(あるいは堤防都市)についていうなら,「堤防」の理念の是非をことあげするのではなく,堤防のフィジカルなスケ−ルが関心の対象となります.「洗面器」のメタファ−から察するに,岡崎さんのいう「堤防」は外部と内部という2つの領域を区分するだけの線分のようなものを志向されているように思えます.よもや中国の都市をかつて取り巻いていた城壁のようなものではなくて.でもほんとはどちらなのかしらね.
 とはいうものの,たまたまカレンを引いたからといって,ぼくをコー リン・ロウ氏のいうところの「タウンスケープ」派に分類するのだけはカンベンして下さい.デジタル・アーキテクトを標榜する皆さんの発言が「サイエンス・フィクション」派に近似するのはもはや当然だとしても,ひとりでハカリのこちら側にいるつもりは毛頭ありませんし,この都市の存在理由が何であるにせよ,水とのimmediacyを解決するのが都市設計者の最重要課題のひとつであるのは疑いもないところですから.

(text by 渡辺真理)