「結んでひらいて」は,異なる知覚体系の人々との協働によって制作された三つの作品から構成されています.それらの作品は,協働者それぞれの知覚・記憶をもとに,世界をいちから構成・構築することができるかという実験的行為によって提示されます.
触覚と聴覚だけで体験する音と触覚の迷路《altag》は,音が鳴る位置をもとにある物自体に触れると,それが視覚によって認識されたものとは異なる様相の物体に感じられる作品.《an image of》は,記憶と想像力をテーマにした三つの実験映像で,手でそのものをトレースするように表現する方法によって,記憶や想像の中の言葉にしにくいことをそのままに伝える作品.《signed》は,装置の前での手の動きからお話が生まれ,自分らしさを体験する作品です.
マイケル・ポランニーが「暗黙知(tacit knowing)」という概念で示したように,わたしたちが何かを知り,学ぼうとするときには,言葉で表現できる領域とできない領域があり,後者のほうが多くを占めているとも言われます.本展示では,自分たちの感覚と世界との結び方,ひとりひとりの世界の捉え方をあらためて結び直し,そしてその感覚をもとに世界をひらいていくことを思い描いています.さらに,これらの作品およびそのアーカイヴ化を通して,暗黙知の領域を引き出しクレオール化*することの可能性について考えることを目指しています.
*ここでは,共通言語をもたない話者どうしが意思疎通するために生まれた言語(ピジン言語)が,さらに発達し,コミュニティの母語(クレオール言語)になることを指します.
企画監修:筧康明
共同制作:野澤幸男,南雲麻衣,児玉英之
空間構成:ideas for what