日本でインターネットの商用サーヴィスが開始されたのは1990年代初頭のことでした.その後のブロードバンド化の進展やスマートフォンなどの小型端末の普及により,現在のわたしたちは常にインターネットにアクセス可能な状態で生活しています.それは,現実と情報のレイヤーが重ね合わされ,現実空間とネット空間を常に行き来している状態だといえるのではないでしょうか.
わたしたちはネットを通じて,友人や知人家族,はては国籍や国境を越えた見ず知らずの人たちが今どこで何をしているのか,その行動や状況を想像することができます.その背景にあるのは,ユーザーそれぞれが自身の日常について記述/記録したデータです.Facebookのユーザー数は全地球的規模に広がっているほか,Flickrには1日で約100万枚の画像が,Twitterには1日で2億にものぼる投稿がアップロードされているといわれています.その総量は,一人の人間がその一生を費やしても全て見ることができないほど膨大です.
こうしたデータは,各サーヴィスが提供するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を介し,必要に応じてオープンに改変・加工・並べ替えが行なわれています.サーヴィス間で頻繁にデータがやりとりされ相互の繋がりが強くなったのを反映し,現在はインターネットそのものが日常を映すメディアとしてわたしたちの意識に浸透しているといえるのではないでしょうか.そこにはいままでとは別種のリアリティや質感,また人間像やコミュニケーションの様式が生まれてきているのではないでしょうか.
インターネット・リアリティ研究会(註)によって企画される本展覧会は,インターネットが日常化し,情報世界に包摂された現実世界としての今日の状況において生み出されている,現在のネット環境に由来する表現を「ポスト・インターネット」としてとらえ,これまでに現われた事例などから,ネットと表現のこれからを考察する試みです.
会期中,会場内では,展示および作品のアップデートが行なわれる予定です.
註:インターネット・リアリティ研究会
エキソニモ(千房けん輔,赤岩やえ),思い出横丁情報科学芸術アカデミー(谷口暁彦+渡邉朋也),栗田洋介を中心に,2011年7月に開催された座談会「インターネット・リアリティとは?」をきっかけに発足した研究会.「日々わたしたちがネットに接しているなかで,ネット特有の〈リアリティ〉を認識するようになっているとすれば,それはどういうことなのか?」という問題意識とともに,ポスト・インターネット時代の表現,または展覧会のあり方を模索する.
http://www.ntticc.or.jp/Archive/2011/InternetReality/index_j.html