観客が細い通路の中を通ることで,その動きに反応して明滅する蛍光灯と,それに伴って発される音によるインスタレーションです.初めは目にまぶしく,耳には雑音のように感じられる,光の明滅やランダムなサウンドは,やがてどこか規則性をもった光の動きとリズミカルな音の動きに感じられるようになるかもしれません.また,変形された空間に包囲されることなどによって,観客へさまざまに作用します.
作家は,激しい風や荒だった波のような自然に対峙したときの体験を例に,それを「情報の飽和」として捉えています.それは,何か読み取りえない情報をもったものが,それゆえに言葉にできない感情の発露を促したり,ノイズとして体験されたりするような状態と言えるかもしれません.たとえば,激しく明滅する蛍光灯の光は,何か気に障るものでもあり,私たちを混乱させるものでもありますが,そのような外部からの刺激や情報に対して適応することが,この作品の要素のひとつとなっています.光の明滅とそれに伴うサウンドへの観客の反応に対して,作品がさらにその挙動を変化させていきます.また作家は,照明としての日常的な機能をもった,工業製品としての蛍光灯の素材の性質を重要な要素とし,その発するノイズや光の不安定さによる予測不可能なふるまいに着目して作品を制作しています.