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スタッフ・ノート

「大友良英 音楽と美術のあいだ」について

2014年11月21日 16:00

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いよいよ,11月22日(土)より,「大友良英 音楽と美術のあいだ」展がはじまります.


大友良英は,即興音楽からポピュラー音楽,さらに映画やテレビの劇伴音楽まで,幅広い音楽の領域で活動する音楽家です.その一方で,美術館やギャラリーなどでの展覧会に参加し,インスタレーション作品を制作するなど,美術の領域においても旺盛な活動を展開しています.


この展覧会には,ふたつのサウンド・インスタレーションが出品されます.ひとつは,2008年に山口情報芸術センター(YCAM)で開催された展覧会「大友良英 / ENSEMBLES」(会期:2008年7月5日―10月13日)に際して,委嘱制作された作品《quartets》,もうひとつは,新作の《guitar solos 1》です.

《quartets》は,2008年に発表されて以来,オリジナルの構成での展示は6年ぶりとなるもので,作家がかねてより再展示の機会を切望していたものでもありました.それは,2005年以降,より積極的にインスタレーション作品を制作するようになる中で,音楽家としての大友の資質にもっとも則したとも言える,音楽作品としてのインスタレーションです.


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《quartets》 写真提供:山口情報芸術センター [YCAM]


あらかじめ収録された,大友良英,石川高,一楽儀光,ジム・オルーク,カヒミ・カリィ,Sachiko M,アクセル・ドゥナー,マーティン・ブランドルマイヤーの八人の演奏家による演奏が,木村友紀のディレクションによるシルエットの映像になってキューブ状の4面スクリーンに投影され,それが,平川紀道のプログラミングによって,つねに異なるメンバーのランダムな組み合わせによるカルテットとして編成されます.


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作業中の平川紀道さん(写真手前)と濱哲史さん(写真奥・YCAM InterLab


また,キューブ状スクリーンの各面の正面には巨大なスクリーンがあり,そこにはベネディクト・ドリューの制作による,演奏者の音に同期して振動する物体や液体などを接写した映像が投影されます.それは,音楽生成装置であり,その即興的瞬間の持続には同じ瞬間はほとんどといっていいくらい訪れません.始まりも終わりもない,時間的な枠組みを持たない音楽作品だと言えるでしょう.


もうひとつの作品《guitar solos 1》は,展示会場に上がる階段に設置されたサウンド・インスタレーションで,今回の展覧会のために制作された新作です.階段の両側に並んだ計16個のスピーカーから,100以上にも及ぶという,いろいろな奏法による大友のギター演奏の断片が,松本昭彦のプログラミングによってランダムに組み合わされます.断続的に発されるギターの音が,階段という展示空間とは異なるオープンな環境で,空間に浸透し,観客自身の移動によってもさまざまに再構成することができます.


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《guitar solos 1》の調整を行なう,大友良英さん(写真中央)と松本昭彦さん(写真左)と筆者

また,展覧会場内にはアーティストや批評家,キュレーターなど35人の方々に寄稿を依頼した「音楽と美術のあいだ」についてのコメントやテキストが掲示されます.執筆者は,阿部一直,伊東篤宏,梅田哲也,小崎哲哉,恩田晃,坂本龍一,佐々木敦,Sachiko M,リチャード・シャルティエ,クリストフ・シャルル,鈴木昭男,角田俊也,dj sniff/水田拓郎,デイヴィッド・トゥープ,中島吏英,カールステン・ニコライ,デイヴィッド・ノヴァック,ホリー・ハーンドン,HACO,蓮沼執太,平川紀道,藤田陽介,藤本由紀夫,堀尾寛太,三原聡一郎,毛利悠子,安野太郎,八木良太,藪前知子,山川冬樹,山本精一,米子匡司,リュウ・ハンキル,和田永(敬称略)といった方々です.音楽家,美術家,批評家,研究者,美術館学芸員など,それぞれの視点から考える「音楽と美術のあいだ」が綴られています.


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さて,この展覧会のタイトルは,元ICC学芸員で(つまり私の仕事上の先輩であり,また大学の先輩でもあったわけですが),2009年から2013年いっぱいまで大阪で梅香堂というギャラリーを営んでいた後々田寿徳さんによる「美術(展示)と音楽(公演)のあいだ」(芸術批評誌『REAR』 29号に掲載)というテキストに由来しています.

それは,梅田哲也さんとSachiko Mさんの展示を通じて,大友さんらと話されたことがきっかけとなって書かれたテキストでした.つねづね感じていた音楽と美術における制度的齟齬をあらためて考えることにもなったという大友さんとSachiko Mさんは,後々田さんのそのテキストをとても気に入られていたということです.自身の活動場所としても,「音楽」と「美術」というふたつの領域(だけではありませんが)で活動されている大友さんだからこそ,後々田さんのテキストを切実に感じたのだと思います.

惜しくも後々田さんは2013年の暮れに他界されてしまいましたが,本展覧会では,後々田さんが投げかけられた問題を受けとめ,その返答として,この展覧会を「音楽と美術のあいだ」をあらためて考えるためのきっかけとしてとらえようとしています.

私も,後々田さんのテキストへの返答として,その横に「音楽(体験)と美術(鑑賞)のあいだ」というテキストを寄せました.ほんとうは,直接議論し合えたならどれだけよかったと思わずにはおられませんが,これは私からの応答としての「音楽と美術のあいだ」です.



[畠中実]