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ICC コレクション

《メディア・テクノロジー 〜7つの記憶》 [1997] “Seven Memories of Media Technology”

岩井俊雄

《メディア・テクノロジー 〜7つの記憶》

作品解説

この作品は,ICC開館当初のコレクション作品として「一般の人々のメディア・アートやメディアを使ったコミュニケーションへの理解を助けるイントロダクションとしての性格」を持つものとして構想,制作されました.作品の中の標本箱に,フリップブック,フェナキスティスコープ(驚き盤),写真,テレビ,ヴィデオ,コンピュータ,オルゴール,という7種類のメディア・テクノロジーが収められています.これらのオブジェにハーフ・ミラーをインターフェイスとしてコンピュータ映像を合成することで,それぞれのメディアの原型とコンピュータ・テクノロジーによるリメイクが提示されます.

岩井は,これまでアニメーションの原型であるゾーイトロープなど,映画以前の映像装置に深い関心を寄せ,そうした装置やメカニズムへの理解とともにそのオマージュというべき作品を制作してきました.これら7つの要素からなる本作は,岩井のいわば作家史の標本箱としての作品という側面も持っています.

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作家の言葉

僕はこれまでメディアやそれに使われるテクノロジーを使って,いろいろな作品をつくってきました.そのほとんどは僕自身の生活のなかに入り込んでいるテレビやビデオやコンピュータなどを,面白がっていじっているうちに発見したことがきっかけとなり,その面白さが何なのか探求するうちに生まれてきたものです.機械によって僕の創造力は刺激され,機械を使って作品をつくる——もしかしたら,僕は自分のまわりにそういったメディア・テクノロジーがなければ作品をつくらないし,つくれないかもしれません.生まれたときからテレビがあった僕の場合,それほど,メディア・テクノロジーの存在はいまの自分に大きな影響を与えてきています.

ただ,特に最近思うのは,僕はそれぞれのメディアによって伝えられる情報に刺激されるというよりも,そのメディアに使われる機械そのものにすごく面白さを感じている,ということです.たとえば,「テレビ」なら番組の内容より,どこかで発射された電波が自分の家に届いて,それが光の点になり,連続的に組み合わさって動く映像ができあがっている事実,そういった仕組みとそれを実現している機械自体にとてつもなく魅力を感じるのです.メディアを使った作品をつくっていても,こうしたモノ自体にすごく愛着を感じるのは,僕がいまだに物質的な時代をひきずっているからなのかもしれません.

今回,ICCのオープニングに合わせて新作として制作するこの作品は,エントランス・ホールに近い位置に常設され,ICCを訪れた人々が多分最初に目にすること,またワークショップ・スペースへの導入的役割も担うということもあり,その位置づけを強く意識しました.つまり,作品自体が,一般の人々のメディア・アートやメディアを使ったコミュニケーションへの理解を助けるイントロダクションとしての性格をもつべきだと考えたのです.設置される場所が細長い空間であることもあり,一つの大きな作品ではなく,シリーズ化した作品をいくつか並べることによって,連続性や多様性を感じられるものにしたいとも思いました.

こうした一種の「メディア・アート入門」的な常設作品を考えるうちに,僕はこれまでに自分に大きな影響を与えたメディア・テクノロジーのなかから代表的なものをいくつか選びだして,それを使って自分自身のパーソナル・ヒストリー的な作品をつくってはどうかと思いつきました.僕自身が使ってきた,身近なごく普通の機械をあえて使い,それを作品化することで僕の作品の原点や発想プロセスが伝えられるかもしれません.具体的には,7つの柱を展示スペースに設置し,フリップブック,フェナキスティスコープ,写真,テレビ,ビデオ,コンピュータ,オルゴールといったこれまでに僕の作品の刺激となった,とりわけパーソナルな要素をもつ機械をオブジェとして標本箱の中に置きます.それに,それぞれにハーフ・ミラーを使ってコンピュータ映像を合成して,物質的な部分と非物質的な部分の両面を対比させつつ,それぞれのメディア・テクノロジーのもつ,本質的な面白さや美しさ,または可能性を僕なりに見せられれば,と思っています.

(岩井俊雄)

作家紹介

1981年大学入学後に始めた実験アニメーション制作をきっかけに映像作家として目覚めたという岩井俊雄は,フリップブックや「驚き盤」,ゾートロープなど映画以前の映像装置にまず関心を寄せた.静止した絵をつぎつぎに連続して見せることによって動きを与えるという,アニメーションの原点としてのこれらの装置を現代的にアレンジして,アニメーションオブジェを制作している.これをさらに発展させたのが《時間層》シリーズ(1985–)で,回転する円盤やドームの内側に取り付けられた小さなオブジェ群が,モニターの点滅光によって生き生きと動きだす作品である.

《マン・マシン・TV》(1989)は,回転ハンドルやジョイスティック,スイッチなどのインターフェイスを取り付けた8台のTVモニタからなり,観客がそれらを操作すると,画面上のオブジェが実際のインターフェイスと直接つながっているかのように動きだす.インタフェースの実験というだけでなく,人間と映像・音をさまざまに結び付ける試みによってインタラクティヴィティーについて考察するための作品であった.

また音楽に関係する作品も多く,観客の描く絵に合わせて画面上を動き回る虫が音を出し,音楽を作りだす《Music Insects》(1992),投影された図形の中に4人の観客がマウスで描く光の点を楽譜として音が奏でられ,ハーモニーのある音楽空間が創りだされる《レゾナンス・オブ・フォー[4つの共鳴] 》(1994)などを制作している.

1995年5月に開催された「マルチメディアーレ4」(ZKM,カールスルーエ,ドイツ)に出品された《映像装置としてのピアノ》は,MIDIを装備したグランドピアノによる作品である.観客がトラックボールを操作することによってスクリーン上に描かれる音譜が楽譜の上を走って鍵盤にぶつかり,リズミカルに音を出すとともに,鍵盤からは立体的な映像が飛び出す.物質的な機械としてのピアノと,非物質的な光としてのコンピュータ・グラフィクスとが結合され,インタラクティヴィティーを介した音と映像との間の新しい関係を人々に垣間見せるものであった.1996年12月には,この作品をもとに坂本龍一とのコラボレーション・パフォーマンスが行なわれた.

また最近では,ビデオカメラによって撮影された観客自身の姿を連続写真のように展開する作品なども制作している.

「自分の身体の一部となり,身体機能の延長として自由にコントロールできる映像」を追求する岩井俊雄は,現実と映像とが交錯するインターフェイスを意識的に介在させることによって物質的現実と仮想現実との境界をあいまいにしたり,インタラクティヴな映像を媒介にして音を奏でたりする装置を開発しながら,「人の意識や感性や創造力をさらに高いレヴェルへと引き上げてくれる」映像装置を作り続けているのである.

(白井雅人)

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