壁に沿って左右に往き来する複数のモジュールが,吊り下げたペンを上下させながら線を描いています.その向かいには作家の2人の動画がプロジェクションされていて,その様子をカメラが捉えています.その映像は解析され,それによりモジュールは連続的なストロークでポートレイトを描いていきます.
人が対象を元に絵を描く場合,対象だけを見続けることはできません.ある瞬間を目に焼き付け,頭の中でそれをどのように描写するかイメージし,さらにそれを手の運動に変えることで,「描く」という行為が起こっています.対してこのドローイング・モジュールでは,対象をカメラで捉え,その映像から任意の1フレームを選択し,アルゴリズムによってデータを数値化し,それをモジュールの動作に変換するというプロセスによって描画が行なわれます.
菅野とやんツーは,一連の共同制作においてマシンによる絵画表現の可能性を追求しています.現在は,人間の作業能力をはるかに凌駕する精度をマシンに備えさせることも可能な時代です.しかしここでは,ペンを吊り下げるという機構や,映像に映り込む鑑賞者の姿など,偶発的なノイズが入り込む余地をあえて描画プロセスに残しています.菅野とやんツーは,このようなノイズを機械の創造性として捉え,そこから対照的に浮かび上がってくる人間の創造性とは何かを探ることをテーマとしています.