InterCommunication No.15 1996

Monograph




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★1
合原一幸『カオス――まったく新しい創造の波』(講談社,1993).

★2
そもそも,秩序と対比されるカオスとはなにか,という問題は,きわめて哲学的な問いとして問われなければならないだろう.この点については,たとえば,雨宮民雄「カオスの諸相と本義」(『現代思想』1994年5月号「特集:カオス――複雑系のエピステーメ」所収)などを参考にされたい.

★3
数学における反復(iteration)の問題を丁寧に解説したものとしては,R.L. Devaney, Chaos, Fractals, and Dynamics ― Computer Experiments in Mathematics(Addison-Wesley, 1990),特にchap.1,2 を参照.また,Devaney には,"Transition To Chaos ― The Orbit Diagram and the Mandelbrot Set"(Science Television, 1990)というビデオ作品があり,入門的に役に立つ.

★4
カオス力学の世界では,離散ロジスティック方程式,あるいはロジスティック写像とよばれるこの式は,イギリスの経済学者マルサスの人口方程式,のちにヴェルハルストがそれに飽和を加味し,また,最終的には,1970年代に,ロバート&メイによって,次世代個体数を表わす式として集中的に考察されている.当論考では,意識的に,この方程式と,現実現象との関わりの考察を避けるために,以下では,電脳バッタの人口変動を表現するものとして考える.これは,カオス現象が,現実現象の背後に潜むかどうか,あるいは,この式が,実際に現実の人口増加を表現しているのか,という関心,つまり,決定論的カオスと現実の複雑系の係わりの問題に踏み込むことを避けるためである.まず最初に示されなければならないのは,純粋な数式のうちだけで,カオス現象が見られる,という点だからである.なお,このロジスティック写像についての詳細な研究は,たとえば,早間彗『カオス力学の基礎』(現代数学社,1994),特に第2章「ロジスティック写像物語」がきわめて参考になる.特に,周期倍化分岐とファイゲンバウムの普遍定数(4.6692……)の問題は興味深く,機会があれば,詳しく論じたいと思う.

★5
fx )=ax(1−x )とする.
a=3としたとき,x1x2x5x7をそれぞれ,初期値x0(=x )から求める式は次のようになる.
Nest[f,x,1]
3x(1−x )

Nest[f,x,2]
9(1−x )x(1− 3(1−x )x )

Nest[f,x,5]
243(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x )))(1−81(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))))

Nest[f,x,7]
2187(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x )))(1−81(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))))(1−243(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x )))(1−81(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x )))))(1−729(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x )))(1−81(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))))(1−243(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x )))(1−81(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))(1−27(1−x )x(1−3(1−x )x )(1−9(1−x )x(1−3(1−x )x ))))))


★6
このMathematicaを使用して,決定論的カオスの実験をするに当たっては,Th.W.Gray & J.Glynn, Exploring Mathematics with Mathematica(Addison-Wesley, 1991).邦訳=『Mathematica 数学の探究』(時田節/藤村行俊訳),トッパン,1994,特にこの Part2 NestList, NestList, NestList がきわめて有益な資料となった.この書物と,ウルフラムのMathematica に出会う前には,私はコンピュータを電卓がわりにして,カオスの実験をしていた.Nest関数の存在,および,リターンマップの書き方などは,すべてこの書物から学んだものである.なお,このトッパン版には,原典版と日本語版の2枚のCD-ROMが付いており,ここで論じられている関数は,すぐにMathematica で実行することができる.

★7
ピュアカオスの厳密な数学的意味については,早間の前掲書,p.52以下を参照のこと.ここにおいて,れっきとした決定論的力学によって得られる解は,確率論的力学によって得られるまったくランダムな解と同一のものとなる.つまり,決定論的力学であるにもかかわらず(従来の数学や物理の常識からすると承認しがたいが),未来はまったく予測不可能なものとなる.

★8
Benoit Mandelbrot," Fractals ―a geometry of nature," in Nina Hall(ed.),Exploring Chaos ― a Guide to the New Science of Disorder(W.W.Norton & Company,1991/93)p.122. 邦訳=ベノワ・マンデルブロー「フラクタルは自然の幾何学」,ニーナ・ホール編『カオスの素顔――量子カオス,生命カオス,太陽系カオス』(宮崎忠訳,講談社ブルーバックス,p.187).なお,この論文集は,きわめて広範な分野で,カオス研究がどのように繰り広げれているかを知るに,格好の参考書である.なお,日本における先駆的な解説書としては,山口昌哉『カオスとフラクタル――非線形の不思議』(講談社ブルーバックス,1986)が是非参考とされるべきである.さらに,70年代から始まるカオス研究のほとんどの基礎文献がリプリントされて収められている,Predrag Cvitanovic(compiled), Universality in Chaos, 2nd Edition(Institute of Physics Publishing, 1989/93)は大部だが,きわめて有益なハンドブックである.

★9
しかし,カオスがこのように極小の値にまで厳密でなければならないとすると,実は,デジタル・コンピュータを使用してカオス実験をすることは,カオス現象の単なる近似的なあり方を模倣しているにすぎないことになる.デジタル・コンピュータには,数値は16ビットや32ビットの正確さでしか保存されていないし,また,内部計算の際の「丸め誤差」や,コード変換における「打ち切り誤差」が,通常の場合とは違って,カオス計算の場合には,決定的な要素となってしまうからである.だから,ここで示した数値結果も,同一のプログラムを使って,異なるコードを持つ他のコンピュータで計算させれば違った結果が出力されうるし,ソフトのヴァージョンが異なれば,やはり違う結果を生み出すかもしれない.この点については,イアン・スチュアート『カオス的世界像――神はサイコロ遊びをするか』(須田不二夫/三村和男訳,白揚社,1992)p.29以下を参照.また,この問題に関しては,合原一幸が前掲書で,デジタル・コンピュータにかわって,アナログ・コンピュータの利点を説得的に説いている(p.215以下).

★10
M.Heidegger "Die Zeit des Weltbildes", in Holzwege(Frankfurt am Main, 1972)pp.69-104. 邦訳に際しては桑木務訳『世界像の時代』(理想社)を参考にした.

★11
もちろん,ハイデガーの場合,この〈見えざる影〉,〈計量されえないもの〉は,より形而上学的な概念である.これを知ることは「現代人には拒まれており」,それは,「存在の現われと隠れとの脱自的(ekstatisch)領域という意味での現存在(Da-sein)」(p.104)において,「将来の人間」が「真の反省する力」において,初めて知りうるものである.

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