InterCommunication No.15 1996

Monograph


数式のうちに現われるカオス

 さて,カオスという言葉でイメージされるのは,一方では,複雑で不規則な諸現象の背後に,なんらかの法則性がみいだされるのではないか,というものであるが,このようなアプローチは,ほぼ太古の昔から探究されてきた方向であろう.
 決定論的カオスの面白さは,それが複雑系のうちに存在するかもしれないという点よりも,極めて純粋で単純な数式の反復のうちにカオスが存在していた,という発見なのだと思われる.つまり,ある数Xを簡単な方程式に代入し,得た値Yを再びXとして同じ方程式に代入する.こうした演算を繰り返してやれば,そこにカオスが現われる.
 秩序(コスモス)の世界だと思われていた純粋数学の世界のうちに,混沌(カオス)が現われてくるのである[★2].純粋数学の世界のうちにカオスが生成するために,ノイズや不確定要素は一切必要がない.純粋な数学的法則を繰り返し反復するだけで,カオスは登場するのである.
 少々長くなるが,この問題を具体的にじっくり試してみよう.
ここで扱う方程式は,

Y=aX (1−X )

というまったく変哲のない二次方程式である.0<X<1の間からあるXの値を選んで(例えば,0.4)を代入する.a=2としておけば,
Y=2×0.4×(1−0.4)=0.48となるから,今度は
そのYの値(0.48)を再びXの値として,最初の式に代入してやる.

Y=2X (1−X )初期値 X=0.4

Y=2×0.4×(1−0.4)=0.48
Y=2×0.48×(1−0.48)=0.4992
Y=2×0.4992×(1−0.492)=……

この作業を繰り返し続けてやるわけである.つまり,
Xn+1=aXn(1−Xn
という式を実行することになる[★3].ここでは,当然のことながら,すべては決定されており,論理的には,aとX 0(初期値)が決まれば,あらゆるXnの値は決定されている.例えば,X15の値は,上の作業を15回繰り返してやることで求められる.
 この数式自体が,なにかの自然現象や社会現象を表現したものと考えてもよいし,単に純粋な数学の世界の話と考えてもよい[★4].ここでは,純粋な数学の世界の話として,論を進めるのが一番筆者の目的に合うのだが,話をわかりやすくするという目的のため(だけ)に,この数式に具体的な意味性を仮に付与してみよう.


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