InterCommunication No.15 1996

Monograph


決定論的カオスの概要

 さてまず,〈決定論的カオス〉についての概略を述べておこう.ここでは,決定論的カオスの概略を知るのに,きわめて有効な入門書と思われる合原一幸『カオス』の記述をキーワード風に紹介する形で概観に代える[★1]

●カオスとは,あるシステムが「ある時点での状態(=初期値)が決まればその後の状態が原理的にすべて決定される」という決定論的法則にしたがっているにもかかわらず,ひじょうに複雑で不規則かつ不安定なふるまいをして遠い将来における状態が予測不可能な現象のことである.(p.149)
●その結果,現在までに実に広範囲な学問世界においてさまざまなカオスが確認され,カオスが特別な現象ではなく,実は非線形なシステムにおいてごくあたりまえのように起こるありふれた現象であることが判明した.そしてニュートン的力学的世界観が,「完全な予測」という古典的束縛をのがれて,新たに生まれ変わろうとしている.(ibid.)
●わずか20年前までは,多くの研究者たちがこのような複雑で不規則で不安定的なふるまいを決定論的力学の問題として取り上げることはなかった.もし取り上げるとすれば,それは確率・統計理論の問題としてであった.(p.38)

これまでの力学の世界観は次のようなものであった.
●この世におけるすべての自然現象は単純で合理的で秩序正しい決定論的法則に従って動いており,その法則を表わす方程式と初期値さえわかれば,すべての現象の過去の状態はもとより,未来永劫の状態もすべて知ることができる(……).(p.45)
●従来,物理学では,線形的システムをその中心的対象としてきたが,線形システムでは重ね合わせの原理が成立するために,「現象を,解析が簡単な要素に分解して各要素を理解し,その重ね合わせで全体を理解する」(p.49)という要素還元的風潮が支配的だった.

 しかし,決定論的カオス研究は,「きちんとした法則に従うシステムが,乱れる外部要因がまったくないにもかかわらず,おどろくべき複雑さをそれ自身の法則によってつくり出す.そして法則がわかっていてもそれらからその法則に従うシステムの将来の状態を完全に予測することは,初期状態を無限の精度で正確に知るという実現不能な要求が満たされない限り不可能である」(p.58)ということを明らかにした.

●カオスは周期的ではない,ひじょうに複雑な非周期的現象である.したがって,アトラクター上の軌道も二度と同じところに戻ることはない.(p.86)

 以上,決定論的カオスについてのイメージを掴むために,合原の記述を羅列的に紹介した.


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