InterCommunication No.15 1996

Feature


ハイテク,美術館,新たなヴィジュアル・リテラシー 3/5

術館の専門家によれば,伝統的な美術館が成しえず,かつインタラクティヴなコンピュータが成しうることは,具体的な美術作品を文化的なコンテクストに差し戻してやること――つまり文学,音楽,歴史的出来事,さらには政治までをも参照することだという.もっとも素朴な形では,インタラクティヴなオーディオ=ヴィジュアル・テープを使えば,指一本の操作でコンテクストに関する何百万バイトの情報にアクセスでき,実際にギャラリーを回るのと同じ情報が得られる.より洗練された,インタラクティヴなコンピュータ,CD-ROM,Webを用いれば,百科事典のレファレンス・システムから,特定のトピックスについて徹底的に調べてくれる詳細で多様な小道(パスウェイ)のすべてを提供してくれる.
はいえ,未来はまだ始まったばかりだ.今日のデジタル化されたインタラクティヴ・アートのシーンの一部は非常に実験的である.学問的な作品もあれば(エドワード・ホッパーについてのホイットニー美術館のCD-ROMがそのひとつ),ヴァーチュアルなものもある(「霊魂が観客を引き込んだり,観客から逃げ去ったりする洞窟世界」を呼び物にしたジェニー・ホルツァーの初のヴィジュアル・アートを含む,グッゲンハイム美術館ソーホーの5つの独立したVRワールド).また魅力的なインフォメーション=アートの作品もある(たとえば,インタラクティヴ・マルチメディア・プログラムに基礎をおいたMIAのギャラリーなど).「われわれは人々のために作品にコンテクストを与えようとしているのです」とセイヤーは言う.
CD-ROMやVRによる経験はそのために力を貸してくれる.となれば,共通の目標は,マイクロチップ化されたインタラクティヴな活動と,より伝統的な美術館体験をいかに継ぎ目なくいかに一体化するかということになる.
っとも洗練されたインタラクティヴ美術館の体験が,ワシントンDCのナショナル・ギャラリーに最近オープンしたマイクロギャラリー[☆3]で味わえるかもしれない.l99l年にロンドンのナショナル・ギャラリーに設置されたシステムをモデルにしているが,アメリカ版はここ4年間に全力を注いできたテクノロジーを大いに利用している.
いつまんで言えば,マイクロギャラリーにある13台のコンピュータのうち,どれでもいいから1台でインタラクトすれば,観客は電子の小道(パスウェイ)の迷宮を通過して主題を一望できる詳細な情報にアクセスできるわけである.画面に触れてアクセスするシステム,革新的なアニメとグラフィック,高解像度の画像,24ビットのデジタル・カラー,精密さを誇るズームなどを組み合わせることによって,利用者は実にさまざまな楽しみ方を享受しながら,教育を受けられる[☆4].「私がとくに強調したいのはその内容です」と,マイクロギャラリーのキュレーター,ヴィッキー・ポーターは言う.「テクノロジーは道具(ツール)として使ってみて下さい.それでこそ私が言う教育手段(ティーチング・ツール)になるのですから」.
かし,アーティストにして理論家のクリス・ライディングはこれに対していささか疑念をさしはさんでいる.彼は「マイクロギャラリーによる溺死」という批評的エッセーのなかで,ロンドンにおける自らのマイクロギャラリー体験を語り,危惧をこう表明している.「マイクロギャラリーの魅力の中心は,情報を操ることにあるのであって,情報それ自体にあるわけではない」.


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