InterCommunication No.15 1996

Feature


ハイテク,美術館,新たなヴィジュアル・リテラシー 5/5

しい世界秩序において最も大きな潜在力を秘めているのは,メディアそれ自体の可能性を探る新しいかたちの美術を発展させていこうとする分野だ.「ヴィジュアル分野を知的にとらえる方法,それをさばくキュレーターの技量.これこそがわれわれの成果なのです」と語るのは,ミネアポリスにあるウォーカー・アート・センターの管理部門責任者デヴィッド・M・ギャリガンである.「そしてこの成果はエレクトロニクスのメディアに翻訳可能なのです.しかも,それは単に作品を再現するということにとどまりません」.
ォーカー・アート・センターは最近,メディア・アーティストのシュー・リー・チェンが制作したインタラクティヴ・マルチメディア・ビデオ・インスタレーション《ボーリング場》を発表した.「これはとてつもなく複雑な作品です.彼女は恐るべきアーティストで,このメディアが持つ独自の特性とはなにか,ビデオやテレビに成しえないどんなことがこのメディアで成しうるのかをきちんと見すえた最初の人物のひとりです.こうした本質的な問いは驚くベき効果を生むでしょう」.
イットニー美術館は,最近,特にWeb用に初めて制作されたプロジェクトに着手した.コレスポンデンス・アート・ムーヴメントの草分け的存在であるコンセプチュアル・アーティストのローウェル・ダーリンは彼のハリウッド・アルケオロジーのアーカイヴを発表している.ロスは言う.「ダーリンは完壁なWebアーティストです.彼の作る現実と想像の関係世界によって,Webはわれわれがヴァーチュアル・プロジェクト空間に自由に入ってゆくチャンスを与えてくれるからです」.
ャリガンは,テクノロジーが社会の「巨大な変化」を促すことは認めている.しかしその一方で困惑もしている.「テクノロジーが提供するものは」と彼は言う.「本来,これ[現場の美術館]を楽しむことができないような世界に住む,莫大な数にのぼる人々のためのものなのです」.
来の美術館の場所を物理的に移動させることを,テクノロジーは,少なくとも意味のあるかたちではまったく成しえないだろう.「2l世紀まであと5年しかありません」とシェスタックは言う.「それなのにわれわれは今ある建物やギャラリーやその空間的配置にこだわっているのです」.美術館の専門家たちは「美術作品が浮き立ち,おのずと語りだせるような比較的ニュートラルなスペースを欲しがっています.私としても,作品から解釈を分離させておいたほうが絶対にいいと思います」と彼は言う.
「芸術と文化を維持するのが美術館の仕事です」.こうギャリガンは結論する.「仕事の大部分は美術品を保存することだと言っていい.それが逃げ口上だとは思いません.しかし,テクノロジーを使えば作品にアクセスしやすくなるし,観客ももっとやってくるはずです」.
「テクノロジーはエキサイティングであり,しかも,それによって美術館の使命がもっと私たちの身近になるのです.日常生活の中心にある美術館.それこそがわれわれの望みなのです」.


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