InterCommunication No.15 1996

Feature


ハイテク,美術館,新たなヴィジュアル・リテラシー 2/5

「テクノロジーは人から美術作品を奪う――美術館のテクノロジーに関するかぎり,こうした主張は再三繰り返されてきました」と,ミネアポリス美術学院(MIA)[☆1]メディア・アンド・テクノロジー・ミュージアム館長スコット・セイヤーは言う.「しかし,観客はさまざまな理由から美術館に足を運ぶものです.感動を求める場合もあれば,精神的な満足を味わいたい場合もある.彼らは美術館をひとつの聖地と考えています.テクノロジーがこれに取って代わることなどけっしてないでしょう」.
「絵画を見るためには,絵画を見なければなりません」と,ニューヨークのホイットニー美術館館長のデヴィッド・ロスは言う.「われわれが食事のときメニューを間違えないのと同じです」.
シントンDCのナショナル・ギャラリー副館長アラン・シェスタックは頑固だ.「偉大な芸術の魔術は,人がそれと一対一で向かい合ったときにのみ発揮されるものです.美術において大事な点のひとつはスケールなのですから」.
SFMOMAにおけるインタラクティヴ・テクノロジーのプログラム・マネージャーであり教育部門のアシスタント・キュレーターであるピーター・S・セイミスもまた,他の同業者と同様に,21世紀の美のゲートキーパーにとって決定的に重要な二つの能力,すなわち博学と豊かなコンピュータ知識を併せ持っている.セイミスは,芸術家と芸術作品の精神を伝えるデジタル・プログラムを生みだすことは“可能だ”と考える.「なるほど芸術は生物ではありません」と,セイミスは言う.「しかし,それでもその魂の質を人々に伝えることはできる.よく考えられたマルチメディアのみがそれを可能にするのです」.
の点を例証するために,セイミスは『カリフォルニア美術の声と像』[☆2]を引き合いにだす.これはSFMOMAが所蔵するカリフォルニア州のアーティストたちのオーディオ=ヴィジュアル・アーガイヴで,美術館を訪れた人が利用できる三つのインタラクティヴ作品のうちの一つである.これは,ビデオ・印刷物・写真・オーディオのコラージュにデジタル・カメラの動きで変化をつけた,親密で,生き生きとした「一種のデジタルのスクラップブックで,アーティストをあなたのいる場所へと連れてくるのです」とセイミスは説明する.


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