プロジェクターで大画面に投影された，めまぐるしい挙動を続けるマッキントッシュ・コンピュータのデスクトップ．フォルダやファイルは際限なく複製され，クリックされると次々にウインドウが開き，エラー・メッセージなどとともに画面を埋めていきます．それに伴って発されるビープ音と，スピーチ・ヴォイスがせわしなく響きわたり，その様子はまるで暴走するコンピュータの様子を記録したもののようにも見えるかもしれません．

コンピュータは，バグやエラーといった誤動作を不可避的に引き起こす可能性をもっています．しかし，たとえばハードディスクがクラッシュした際に起こる，デスクトップ画面の乱れなどの突然の不調が生み出すノイズを肯定的に捉え，現在のコンピュータ音楽の中でも「グリッチ」と呼ばれるデジタル処理によって生み出されるノイズに着目した動向に顕著な，「エラーの美学」とでも言うべき新しい美意識が確立されてきてもいます．JODIの諸作品は，そのような「乱調の美」とでも言うべきものを特徴としてもっています．ただし，この作品における，コンピュータ自身のエラーかと見間違えるようなコンピュータの不審な挙動は，実際にはカーソルを動かし，クリックやドラッグといった，人間の手による操作によって生み出されているのです．あたかもVJのようにデスクトップを演奏するパフォーマンス性の高い作品であるとも言えるでしょう．