ICC

《PLX》
2001
クワクボリョウタ
撮影:木奥惠三
これは二人が対面して競い合う対戦型ゲームのような作品です.しかし,中央に直立したスクリーンを介しているため,相手のスクリーンを見ることはできません.お互いが自分の側のスクリーンだけを見てゲームを行ないます.共通のゲームに興じる二人のプレーヤーの間には,互いに共通のコミュニケーションが成立しているように見えます.
この作品は,自分対相手といった一対一の関係によって成立する対戦ゲームのように楽しむことができます.しかし,あたかも対戦しているように見える二人は,実際には一方が月面に着陸船を着地させるのに対してもう一方はキューピッドがハートを射抜く,というように異なる内容のゲームを,同じプログラムを介して行なっています. たとえば対話において,同じことについて話しているつもりがじつは互いに違うことについて話をしていた,ということがあるように,この作品では,そうしたコミュニケーションにおけるズレをゲームの形を借りて表現しています.そのような時に感じる文脈のおかしさを二人のプレーヤーの反応の中に見いだすことができるでしょう.
クワクボリョウタは,1998年より主にエレクトロニクスを用いた作品の制作を行なっている.その作品は,ガジェットの体裁をとりながら,デジタルとアナログ,人間と機械,情報の送り手と受け手などの境界線上で生じる現象をクローズアップする.
ゲーム
ゲームは,プレーヤーがある規則=ルールを前提として共有することではじめて成立します.遊戯としてのゲームだけでなく,たとえば日常会話も,共同体における一定のルールにもとづいて行なわれるという点を考えれば,私たちは常にゲームをしているともいえるでしょう.作者は,親しみやすいゲームの形を借りることで,このような他者とのコミュニケーションにおける本質的な問題を感じさせようとしています.