eナントカに ITうんちゃらについての断想

2. 経済全体への波及

すでにあちこちで書いたことだけれど,情報技術は別に経済全体の生産性を高めたりはしていない.アメリカでは平均で見ると,生産性は上がっているのだけれど,それはコンピュータの関連ハード製造業だけがすさまじく生産性を上げているだけで,ほかのところはほとんど生産性が上がっていない.

なぜそうなるのか? それは情報技術の多くが,市場全体を拡大するものではなく,既存市場のなかでのパイの取り合いツールとして使われている場合が多いからだ,というのが一つの説だ.例えばアマゾンがのしてきて客を奪われたので,大書店のバーンズ&ノーブルもオンライン書店を立ち上げ,情報化を進める.これにより情報投資は増える.システム構築をしたりする企業は,市場が拡大して儲かるだろう.でも,パイ全体はあまり増えない可能性は多々ある.結果として,情報化によりシェアは変化するかもしれないけれど,全体としての生産性(つまり最終的な売り上げ)はあまり変わらない.

さらに,各種情報ツールは,単に既存の仕組みを置き換えるだけの存在である場合が多い.例えば,先日郵政省が,外国向け郵便物が近年激減していることを発表した.外国向けの通信の多くが,電子メールで代替されてしまったからだ.でも,いろいろなコストを考えると,これは生産性を上げたのか? 便利になったということと,全体としての生産性が上がったというのは別のことなので注意が必要だ.

また,最近よく聞く「B2B(Business to Business)」とか「B2C(Business to Consumer)」とかいう議論がある.オンライン通販をeコマースなどと言ってもてはやすだけでは先がないと思い当たった人たちが,消費者相手のサーヴィスはじり貧だけれど,企業間取引の部分はバラ色だ,という話をしたいがために,「これからはB2B」なんてことを言う.でも,中間業者の部分だけが効率化されても,最終的な製品販売からの利益が変わらなければ,全体としての生産性は上がらない.そしていまのところ,それも明確には出てきていない.

そしてさらにさらにもう一つ.各種eビジネスの一部,特にオンライン取引やオークションは,ほかの企業の生産性を落とすことで栄えている可能性がある.有名なオークション・サイトであるe-Bayのアクセスが一番のピークを迎えるのはいつか?

それはまさにみんなが仕事をしているはずの日中だという.つまりかなり多数の人が会社で仕事もせずに(ということは要するにその会社の生産性を下げて),オークション・サイトにアクセスしたり,オンライン・ショッピングをしたりしているわけだ.


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