eナントカに ITうんちゃらについての断想

1.2. ネットワークの収益逓増

こうしたeナントカの未来がバラ色だという議論のバックとなる最大のものが,「ネットワークは収益逓増」というヤツだ.

この議論を簡単にすれば,まあAさんBさんCさんの3人がいたとき,ABを結ぶ電話ネットワークをつくると,この2人が話ができてメリットが生じるけれど,それを拡張してCさんをつなぐようにしたら,Cさんにとってメリットがあるだけでなく,A,BさんにもCさんと話ができるようになるから追加のメリットができてきて,そしてネットワーク全体としてのメリットは追加投資に比例するどころか,それをどんどん上回る速度で成長するのだ,という話.

通常この議論は,「だからネットワークはどんどん拡大し,その上のビジネスも爆発的に拡大するのだ」というオチがつく.

でも,ちょっと考えるとこれはおかしい.ネットワークは,電話や電子ネットワークだけじゃない.道路も鉄道もネットワークだ.もしネットワークが収益逓増でつくればつくるほど儲かるものなら,どうして日本全国津々浦々までネットワークが行き渡らない? どうして国鉄は赤字なんかになる?

上のネットワーク収益逓増理論というのは,基本的には人々やニーズがすべて均等に分布しているという前提にたっている.AさんとBさんのあいだのニーズと,BC,CAのあいだのニーズが同じだ,という仮定にたっている.でも実際の通信需要というのは(あるいは輸送でも行き来でもいいんだけれど)均等には分布していないのだ.

だからこそネットワークをつくる側は,一番ニーズの高いところから整備をする.日本での長距離ネットワークを考えると,まあなんでも東京−大阪間をまず整備する.名古屋,京都は途中にあるから,まあついでだ.そのあとでそれを博多や仙台にのばして,という具合になってくる.一番儲かるのが東京−大阪間で,その後の整備分の収益はジリ貧だ,というのはだいたい予想がつくだろう.

つまり,実際のネットワーク整備は収益逓増にはならない.だんだん追加投資分の収益は低下してゆくし,利用者が追加投資から得るメリットも低下する.どこかでそれが均衡して,ネットワークの延伸は止まる.さっきの例で言えば,Aさんは別にCさんに何の用もないかもしれない.したがってCさんと話ができるようになっても,メリットは増えない,ということ.

さらに,ネットワークで収益が逓増するにしても,それはネットワーク全体としての話.電話機やファクスのネットワークは便利で,同じような収益逓増法則にさらされているかもしれないけれど,だからといって電話機やファクスの販売が収益逓増にあうわけではないのだ.同じように,ネットワーク上の機器やソフトを製造販売するのは,収益逓増にはさらされない,ふつうの物品販売業にすぎない.


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