IT革命に賭ける

――マネックス証券の両輪をなすソニーのクレディビリティと松本さんのガバナビリティについて,ソニーの応援を受けているメリットを伺いましたが,同時に松本さん個人の事業であることのメリットは?

松本──意思決定の早さだと思います.基本的には,私一人で決められます.先程の100万円まで1000円という手数料についても,当初,その3倍くらいを想定していましたが,他社がそれを下回る手数料を打ち出してきたため,発表直前に「遅かれ早かれ下がるところまで下がるのであれば先頭を切ったほうがよい」と最低レヴェルに変えたのです.社員も驚いてましたが,手数料完全自由化と同時に,最低レヴェルの手数料でスタートしたことで,マスコミの大きな話題になり,マネックス証券の名前が一気に浸透しました.これを広告宣伝費に換算したら大変なものです.最低水準とはいっても,私の頭の中では,きちんと採算がとれる水準なのです.しかし,もし私の上に誰かいて,それを限られた短い時間の中で説得できるかというと,ほとんど不可能でしょう.準備した印刷物などもすべて差し替えなければいけませんし.

大きな組織になるほど,迅速な意思決定ができなくなってしまいます.流れが速く変化の激しいインターネット・ビジネスでは,意思決定の早さ自体が大きな強みになります.仮に一旦まちがった意思決定をしても,すぐに次の意思決定で軌道修正できますから.例えば5割以上当たる確率のサイコロを持っているとすると,サイコロを振る回数が多いほど,リターンの総和は大きくなります.つまりトップの意思決定の回数が多いほど,会社のリターンは大きくなるのです.ただし,私が5割以上のヴォルテージを保つことが必要ですが...

──意思決定の回数が多いほどリターンが多くなる,というのは人生においても同じでしょうか? 例えば5割以上の確率を出せるなら,意思決定を避ける現状維持タイプより,意思決定を多くしたほうが,人生のリターンは大きくなるとお考えですか?

松本──それはわかりません.36歳にして人生語るべからず,という気がしています.


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