IT革命に賭ける

松本――ゼネラル・パートナーとしてゴールドマン・サックスの将来を考えなければならない立場にあった私は,97年4月に「プロジェクト・ビッグバン」を立ち上げ,日本のビッグバンで生まれるビジネス・チャンスを調査しました.そして破産債権ビジネスを始めたのですが,その中で日本の金融の抱える歪みを痛感したのです.

国民の預金が銀行を通じて不良債権に化け,その銀行を救済する公的資金として,さらに国民の税金が銀行に投入される,というのは明らかに何かがまちがっていると思いました.日本には1300兆円もの個人金融資産がありますが,銀行を通じた預貯金などの間接金融が90パーセントを占め,株式や投資信託などの直接金融は10パーセントしかありません.これは45パーセントという米国の直接金融と比べても明らかに異様で,日本でも直接金融の割合が30パーセントくらいには拡大するだろう,と考えました.

また,銀行に預けた預金のうち,約30パーセントは国債の購入に充てられ,さらに約30パーセントが銀行と一般企業の持ち合い株の維持に使われています.つまり私たちの預金が実際の経済活動に使われるのは,残りのわずか40パーセントくらいで,銀行を通じた間接金融は完全に機能不全に陥っているのです.これは経済活動のため資金を必要とする企業にとっても,低金利に甘んじる預金者にとってもお互いに不幸な状況です.梗塞した間接金融により日本経済が壊死する前に,401k[★3]導入やペイオフ実施などを経て,直接金融のバイパスが開き,資金という血流が日本経済を循環するようになると読んだのです.

そして,その直接金融へのシフトを一気に進める起爆剤の一つがITです.インターネットの普及につれて,これまで余剰資金を預金していた人たちが手軽に株式や投資信託を売買するようになるでしょう.現在インターネットの利用者は,2000万人ですが,5年後には5000万人になると予測されています.インターネット証券は,直接金融の増大による株式取引の増加と,インターネット利用者の増加という二つのプラス要因に乗っている千載一偶のビジネスで,インターネット証券の利用者は,y=ax2という放物線を描き,加速度的に増えるはずです.

――IT革命により金融ビッグバンが一気に進展するということですね.そこでのITベンチャーの役割は?

松本――インターネット・ビジネスは個人が主役で,大企業の看板だけではうまくいかない,と思います.米国で成功したアマゾン・コムもヤフーもeベイも,すべて個人主体のベンチャー企業です.ただ,ITベンチャーというのは,電話ベンチャーとか鉄道ベンチャーという言葉がないように,将来は,ごく普通のものになってしまい,そういう捉え方ができなくなると思います.ITとはあくまでも多くの企業が手段や道具として使うようになるので,あまりITとして独立しては見えなくなってくると思います.もちろんITベンチャーの中には,うまくいかずに潰れるところもでるでしょう.電話が発明されたときに,電話を使ったビジネスを考えた会社のすべてが大成功したわけではなく,なかにはうまくいかなかった会社もあったわけです.ただ全体で見ると,電話を使って効率を上げた企業群の価値は上がっていますから,同じように,ITを使うことによって全体は上がってくると思います.


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