終わりなき道の標に |
仕事の場所と時間 会津――石井さんが日本を飛び出した事情を,僕はあんまりネガティヴに見たくないし,その後の石井さんの在り方を見てて,刺激も受けます.つくづく「逆島国根性」型の批判はしたくないと思うんです.外国に長いあいだ住んでいる日本人は大概日本のことを否定的に見たくなりますよね,それでは解決がない. 石井――僕は別にそんなことはない. 会津――でも日本はこれでよいのかとか思いませんか.少なくともそのシステムのなかに自分がいるとしたら. 石井――例えば日本のこのシステムのままだと根本的にMITに勝てない,とは思いますよ.勝てる土壌がない.けれどどちらが良い悪いという,単純化した議論を僕は好まない.世界はある意味で流動するピラミッド構造で,知識は必ずしも均等に分散してないし,その頂点というのは移動するかもしれないし,当分移動しないかもしれない.もちろん日本の文化風土には本当に素晴らしいところもあるし,それは僕のデザインにも反映されています. ただ自分がどこで真剣勝負をすべきか,ということはものすごく深く考える.最もクリエイティヴで,知的に腹が減っている連中が集まる,あるいはそういう連中をリクルートできる場所でやる.知的に腹が減るとはどういうことかは,本当に飢餓体験をした人間でないと理解できない.そういう飢餓体験をした人間が,厳しい競争を経て這い上がってくるような場所でないかぎり,僕らのような研究はできない.物理的にいまの日本は豊かすぎて,飽食の時代だから,日本で飢えた学生を見つけるのは至難の業ですね. 会津――そういう意味では石井さんのいるMITのメディア・ラボは,物理的には豊かかもしれないけれど,精神的・知的にはきわめてハングリーな人間が集まる場所ですね.逆に言うと,物理的な意味での相当な豊かさが支えになっていますね.スポンサーたちがちゃんと支える仕組みがある,それはMITの人たちがつくったことかもしれないけど. |
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