終わりなき道の標に

石井――それはもちろんそうですよ.われわれが必死に基金集めするのは,自分たちの夢を実現するために必要だから.一番貴重なリソースである時間を買えるんだったら,お金を積んででも買いたい.だから一生懸命基金を募る.そのために,必死でわれわれはコンセプトも物もつくります.いまや世界中ドット・コム流行りで会社をつくって,成功したらその会社を売ってお金儲けすればいいという病気がはびこっていますよね.そういう病気にかかった連中はほうっておいて,僕が本当に欲しいのは,自分自身のしっかりとした夢と理念をもって,100年後にどうやって思い出されたいのか,何を未来に残したいのか,という問いを自分自身に発しつづける人間なのです.30年以上前にエンゲルバートのような大先輩がどういう発明をして,今日,その恩恵をどれだけ広くわれわれは享受しているかという現実を目の前に突きつけると,何パーセントかの学生は本当に燃える.エンジニアとして,つくり手として.大事なのは,なぜ自分が存在しているのか,自分の存在の意味を世界的・歴史的コンテクストのなかで考えること.そういう人間を精選することです.だから素晴らしい学生をリクルートできてそういうチームがつくれるというのは,とてもありがたいのです.そういうロマンとか使命感を共有できなかったら,苦しくてこんな仕事できない.

会津――社会的な側面というのは,ほとんどが実はマイナスな問題で,そのネガティヴな問題をどうやって解決するかということが大きくて,残念ながらなかなか前向きなところにもっていけないかもしれない.例えば若者に,勉強してこれだけ新しくてクリエイティヴで,素晴らしい世の中をつくれますという議論をできるかどうか......

石井――できないでしょうね.

会津――結構辛いものがありますね.途上国に行けば,この飢餓の現実をどうするんだという問題がまず出るだろうし.エンジニアで言えば,ドット・コム・ビジネスを始めようとする連中が,新しい問題をガンガンつくりだしてくれるわけですよ.そうした問題群をどうすればいいのか.

で,とりあえず,小さな勉強会をつくるところから始めようと思っています.若い人が育つように,と.やってみなければわからないわけですから.

石井――僕らがやっている人間と情報とのインターフェイス・デザインの仕事には,アートも,デザインも,哲学も深く関わってくるし,機械,電気,電子,情報などの工学分野も全部深く関わってきている.だからみんな複数の異なる言葉を話せないとやっていけない.そういう才能をもった連中を集めてチームをつくり,彼らの心に火をつけられるかということが,リーダとしての自分には問われるのです.小さくとも,深く互いを尊敬し合い学び合うコミュニティをつくれるかというチャレンジに,日々立ち向かっているのです.

[2000年7月10日,ICC]


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