終わりなき道の標に |
新しい問いを問うこと 石井――発信のためのメディアの選択というのは決定的で,例えば日本語で書いたら残念ながら意味がない.僕のメッセージを本当に伝えたいオーディエンスの共通言語は英語だから.日本人としては悲しいけれども,それが現実だから仕方がない.同時に研究の成果がその分野で最高峰の学会の論文誌に載るだけでは,十分広く世界に届かないということはありますよね.どういうメディアに載せて,どういうメッセージを誰に向けて送るか.そのメッセージもシンプルでないと遠くまで届かない. 会津――要するにお前の言いたいことは何だ,とか言われて終わってしまうのですね. 石井――So what?(だからどうした)とWhat's new?(何が新しいのか)が大事な問いですね.要するに同じような問題が以前からいろいろなかたちで何度も何度も議論されているのかもしれない. 会津――インターネットに関連するグローバルな問題として,ドメイン・ネームのほかにも,Eコマースとか税金とかセキュリティーとかポルノグラフィーとか,個別の問題がたくさんあって,それぞれの問題に取り組むフォーラムはいくつもある.グローバルいう名前が頭につくグループが20ぐらいあるんですね.それが全部,北半球に本部があって,事実として,要するに北側の国が全部主導権を握っているのです.にもかかわらず,欧米とかノース何とかとは謳わずに,全部グローバルって名乗ってるわけですね. そう批判をするからには,自分で始めるとすれば,当然,スタートラインから真にグローバルな組織にしなければならないと思います.ということは,代表者が南も北も東も西も対等にそろったところからスタートしないといけない.日本とアメリカとヨーロッパで始めてしまったら,その瞬間に,もうグローバルではないわけです. かといって国連のように,200以上の国を集めて,仲良く1国1票ずつで決めましょうと言っても,何も決まらない.ではそういう仕組みなら本当にグローバルに公平なのか.これだけでも相当難しいことで,ことが大きすぎてギヴアップしたほうがいいかななんて,珍しく慎重に思ってしまうのです.でもいったん自分で問題に気がついたからには,もうダメだというところまでは徹底してやらないと格好悪いじゃないですか. 石井――多分大事なのは残されたエネルギーを効率という意味じゃなくて,本当にうまく使うことでしょう.個々の問題をいろいろなプロジェクトで解くことも大事なことかもしれないけれども,多分会津さんがやろうとしているのは,誰も大局的につかんではいない,全地球的な視点,全世界的な地政学としてのいくつかの問題なのでしょう.それらの問題のいくつかの良い例を,分類・体系化しながら示していくことが,多分ある意味で一番役に立つというか,問題解決の近道になるんじゃないかなという気がしてきたんですよ. 会津――なるほど. 僕らは多分,自分が全部それを書くというよりは,仕掛けをつくって,書ける人を探してきて書いてもらおうかなと,考えていますけれど. 石井――何が問題かということを同定することが一番大切で,何が問題かわからないから,逆に身近な些末な問題を解こうとか,枠組みを小さくしようとかということに行き着いてしまう.それはそれで大事なんだけれども,木を見て森を見ずということになりかねない.問題の所在がどこにあるかが8,9割決まれば,解ける人は一杯いる.なぜその問題が本質的かということを説得力あるかたちで示すことが大事なのです.「タンジブル・ビット」というのもそうなんですよ.本質的な問いを問うこと,誰も問わなかった新しい問いを投げかけることによって,その次の時代のランドスケープをデザインするときに何が一番大事になるのかということを可視化できたと思います.本当にいい問いを発することができれば,それで一生終わってももう悔いはない.だってお互いもうあとそんなに残ってないですから. 会津――ずいぶん悲観的なことを言いますね. 石井――われわれに残された時間の短さ,そして本当に何を残せるかを真剣に考えると,大切なのは次の世代のための道標を残すことではないかと思うんです.大事なのは会津さんなりが残したロードマップを次の世代,さらにその次の世代が,どんどん改訂していくことですね. 会津――この問題とそれなりに格闘してきた人たちのあいだには,同じような問題意識が生まれてきているでしょう.オリジナリティということをどう捉えるかによりますが,道標とはその意味でプレオリジナリティの問題であり,非常に重要なレヴェルです. 石井――確かに,いままでのものと比べて何が新しいのかという単純な捉え方では無理がでてきますね. 会津――その道標には,誰もが普遍的にもっているけれども,簡単にはとりあげない問題,特に社会的な問題が含まれている.位相が多分異なるのですね. 石井――そうですね,だから同じ尺度で計るべきではない. |
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