終わりなき道の標に |
石井――それは個別のプロジェクトで? 会津――そう思う部分が一つと,もう一つはもっとメタファーになりますが,インターネットの時代に本来必要な,政策上の意思決定について,本当にグローバルな,知的な枠組み,基本的な枠組みが存在していないと痛感しているのです.なおかつ,そういう枠組みが存在していないのであれば,それをつくる必要があると思います.まあとりあえずホラを吹いてみて,そうだと思う人が何十人か集まってきたら何かが起こると思っています.そういうことも含めて,いまの僕は半分浪人状態なんです.だからこそ,石井さんの次の目的は何なのかということに興味があるのです.一度メディア・ラボまで飛んでいったわけじゃないですか.僕は日本の枠組みから石井裕は飛び出していったと思うんだけど. 石井――まあ,確かにそうですね. 会津――ゼロ・リセットしちゃおうと考えたとか. 石井――はい,アメリカに渡るのを機に,自分をリセットし,再定義しようと思いましたね. 会津――僕はいまちょっと微妙なところで,リセットもしきれないでいまして,うーんって唸ってるんですよ. 石井――会津さんのもっている広範なネットワークと,経験,エネルギー,それをどのターゲットに向けて傾注するかっていうことが一番大事ですよね.やはり一番大事なのは的を絞ること,一つをひろって,残る99をあきらめることだと思います.その一つのなかで,できるだけ自分の思いが伝わるように仕掛けていくこと.僕も巨大なシステムをつくりたいというあこがれはあるんです.けれどやはりどれか一つの問題に照準をあわせて,それを解くことから始めなければならない.しかもできればクリーンに解きたいですよね.解けたのか,解けていないのかよくわからない状態は気持ち悪くて,それではやはりだめです.結局は,0から1への明快なジャンプが僕にとっては大切で,《クリアボード》も《ミュージック・ボトル》も《カーリーボット》もそんなジャンプの例です.それまでなかったものが,いまはあるのです.なぜなら僕らがつくったから. 僕のアプローチは会津さんが取り組んでおられるような社会文化的な問題に適用できるかよくわからないのですけれども,そういう的絞りというのは,残り少ない時間とエネルギーを考えると絶対大事なことです.ともするとMITのような刺激的な環境では,いろいろなことに興味をもちすぎて,結局的絞りができない人が多い.スマートな人こそ,その傾向が強い.でもそれは危険な傾向です.なぜかというと,彼らは何でもやりたいし,やれると思ってしまうから.でも人生は思ったより短くて,CPU(頭脳)の寿命も短い.だから,一つのクリーンなメッセージを本当に届けたいオーディエンス(聴衆)に明快なかたちで届ける,それで卒業.そのように私は指導しています. 会津――なるほど,なんか先生に教えてもらった感じがしますね(笑).いや確かにあまりにも大きい問題だけれど,なぜかやはりそういう局面に出会ってしまうのですね.それを一つのメタなレヴェルでちゃんと抽象化しなければいけないなと思っています.ただ同時に,的絞りというのと同じような意味で,個別の戦略が見えないといけない.まったくないわけではないけれど,いきなり絞り込めと言われて絞り込めるものでもない. 社会性という意味で言うと,志を同じくする人がなかなかいない.自分自身が言い出しっぺになるとは実はぜんぜん思っていなくて,同じレヴェルの言い出しっぺが何人か共振すれば,一緒にできるかなと思っているわけです. 石井――だから,しかるべきメディアにメッセージをのせて,届くようにしなければいけませんね. 会津――はい,いまウォーミングアップ中ということですね. |
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