終わりなき道の標に

石井――僕一人だったら,速くはないけど,とにかく自分の手でつくれる.自分でつくりあげればそれは自分のものだから,喜びも大きい.そういうつくる人間としてのエゴがある一方で,僕は中小企業の親父みたいに,自分の研究グループがとにかくちゃんと走りつづけるように気をまわさなけらばならない.従業員(学生)がやる気を起こして,自分が成し遂げたと実感できる場をつくってあげなければいけない.今回,ICCでこのような展覧会の体験を学生たちと共有することによって,みんな大きな達成感をもとことができたと思います.

それと問題は,異なる価値観とか異なる文化をもったコミュニティにアイディアをどうやって伝えるかということで,それはかなりの知的挑戦なのです.芸術家は「作品そのものが語ればよく,作家が作品を説明する必要はない」と考えるけれど,僕らはちゃんと説明しなければならない.深い所にある思想は,表面だけに触れても,なかなかそう簡単に伝わらない.説明する努力のなかで,アイディア自体が次第に研ぎ澄まされていく.そうして教えた学生が2年間(修士の場合)で修了し,そしてまた次の新しい学生が入ってくる.多分その速い血液循環があるから,これだけいろいろなものをつくりだすことができたのです.もちろんその結果として「タンジブル・ビット」の概念の幅も広がった.

最終的に学校をつくるかという話ですけれども,僕は校長先生になることに特別魅力は感じない.ただ自分はつくる人間だし,同じような創造的な人間にどんどんつくってもらえる,そういう知的創造の場をつくることには当然強い関心がある.僕の若いときは出る杭は打たれると言われたものですが,これからは,出る杭を伸ばすような環境ができてもいいんじゃないかという気がしています.

会津――年を取るというのは大事なことで,僕も一昨年ぐらいから,そろそろ次の人を育ることに取り組まないといけないかなと,柄にもなく思いはじめたのです.解決しなければならない課題がすごく大きい場合,自分一人がいくら必死になっても解けないと思ったからです.どうしても解かなければならないと考えると,やはり大勢の人間によるコラボレーションを組織しないといけないわけです.

具体的に言うと,いまインターネットの世界では,グローバルなネットワークの管理のための組織やルールづくりと,その組織やルールをどう運用するかが大問題となっています.いまはみんながメールをどこに出してもちゃんと届く仕組みができているけど,インターネットの利用の爆発的な増加にともなって,これから先はわからない.


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