21世紀に伝えたい本

坂本――あとね,決定的な影響はパリの五月革命とその前後の動き.やはりゴダールになっちゃうんだけど,映画のなかで俳優たちが喋ってることや,もってる本なんかも,同時代的にシンクロしてた.フッサールだったり,毛沢東,ゲバラとかね.ゴダールでも特に《中国女》[VI]が好きだったな.パリの五月革命を予感した映画.デモで「解体」とか言っても,本当に何を解体しようって思ってるのかつきつめて考えてなかったから,高校生のぼくたちとしては.ゴダールの映画に,ファッションとしてずいぶん影響されたよ(笑).

後藤――僕もまったく同じで,ゴダールとかメカス,ウォーホルに影響されて,8ミリ映画とか始めたんですね.ゴダールがやったジガ・ヴェルトフ集団とかね.僕はいま,本というかたちで編集の仕事をしてますが.ヌーヴェル・ヴァーグやモンタージュ手法から,写真集とか本の編集を学んだことが大きいですね.あと,「思想」を,どうやればカッコよく表現できるかとか.思想と表現ですね.

坂本――よく「立て看」って書いたでしょ.

後藤――「ゲバ文字」の練習とかしたり,壁新聞とかポスターやチラシも自分でデザインやレイアウトもしましたね.

坂本――立て看にゲバ文字で書いて,必ず一番最後に「ケムンパス」の絵を描く,赤塚不二夫のね.「そうでやんす」っていう吹き出し付きで(笑).

後藤――だから,政治的反乱の季節が生み出した,アンダーグラウンド・カルチャー,ヒッピズム,ゴダール,ポップ・アート,漫画とかをとおして,編集のスタイルとか,本のカタチとかを学んだんですね.

坂本――ゴダールの映画をとおしてマルクスや毛沢東を読むっていう感じだった.

後藤――あと,コマーシャルよりプロパガンダのほうがかっこいいとか(笑).

坂本――大学に入ってから,吉本隆明の影響で,作家を丸ごと読まなきゃいかんと思いたって,夏目漱石全集,太宰治全集を神田で買ってきて,読みました.全集をまとめて読んだのって,その二人ぐらいしかないんじゃないかな.

後藤――最近おもしろくってね,荻窪とか神田の古本屋によく行くんですよ.すると,どういうわけか70年代前半の本がすごく出てるんですね.古本屋はもう,かつてないぐらい値崩れしてるんだけど,グラフィック・デザイナーの平野甲賀が当時装幀をした本とか,レアもので,集めてる若い子とか結構いるんですよ.ブレヒトとかライヒとか,フッサールとか.

坂本――あ,あのあたりも結構読んだなあ.フーコーの訳とかも出はじめの頃だった.ドゥルーズはまだ訳されてなかったと思うな.デリダは早かった

後藤――でも,音楽やってるのに,そんなに思想書や科学の本を読んでる人って,武満さんと坂本さんぐらいでしょう.それはやっぱり,「思想の道具」っていう感じが強いんでしょうか?

坂本――いや,何のためってことはないけど.ただ気になるから(笑).僕らが物心ついた頃って,高度資本主義,高度消費社会に向かってく過程だったわけで,当然ながら単純にブルジョワとプロレタリアートととは分けられない時代に突入していた.権力が悪で,被抑圧者が善だと言っても,何が権力で,誰がどう抑圧されるのかが単純には見えない社会になってきた.学生運動なんかやってると,建て前的には「反権力」とか言ってるんだけど,単純にガス銃を持っている機動隊が「権力」というわけじゃない.逆に社会の至るところに権力関係があるっていうことが見えてくる.


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