ICC Report

ゲルフリート・シュトッカー

ICC講演会
 ゲルフリート・シュトッカー

「メディア・アートの歴史――アルス・エレクトロニカの20年」
10月20日 ICC5階ロビー



ヨーロッパにおけるメディア・アートのセンターとして,オーストリアのリンツにあるアルス・エレクトロニカ・センターはあまりにもよく知られた存在である.特に毎年9月に開催されるアルス・エレクトロニカ・フェスティヴァルは,20年の歴史をもち,展覧会,シンポジウム,パフォーマンスなどさまざまなイヴェントが繰り広げられるメディア・アートの国際的なフェスティヴァルとして,これまでこの分野において先進的かつ指導的な役割を果たしてきた.

今回ICCでは,アルス・エレクトロニカ・センターとオーストリア大使館との共催により,このアルス・エレクロニカ・フェスティヴァル芸術監督であるゲルフリート・シュトッカーを迎えて,講演会を開催した. ナムジュン・パイクの古典的作品への言及から始められた講演は,豊富な作品例を持参したコンピュータの画像データベースから引用しながら,メディア・アートの歴史的変遷とその性格の特質について,アルス・エレクトロニカの活動の歴史的な概括を含めて語るという,多岐にわたる内容となった.

ドキュメントからイヴェントへ,オブジェクトからプロセスへ,アナログからデジタルへ,コンテントからコンテクストへなど,70年代から90年代へと連なるメディア・アートの歴史過程のなかで,個々の作品のもつ意味や内容そして形式が大きく変容したことを指摘し,新世紀を迎えようとする現在,さらなる広がりとその可能性に大きな期待を表明して講演は締めくくられた.

この講演から,ICCの活動がアルス・エレクトロニカ・センターのような先行する機関の努力と成果によってはじめて実現したということ,さらにシュトッカーが自らのラップトップ・コンピュータを駆使したパフォーマンスで示したように,メディア・アートの進化自体が,いまだテクノロジーの革新にその多くを依存していることを,あらためて実感したと言えるだろう.

また,20年の歴史的概観が一つのテーマであったため内容が総花的なものとならざるをえなかった点が惜しまれると同時に,アルス・エレクトロニカ・フェスティヴァルの90年代後半の活動が同種の施設の台頭などによって,必ずしも先進的なものではなくなっている現状を,はからずもかいま見る結果となった.

こうした状況に対して,センター自身がどのように自らの役割を変革し,対応していくかは今後大きな課題となるだろう.ICCもこの例外ではないことは,自戒の意味も込めて,銘記しておかなければならないことは言うまでもない.

(小松崎拓男)

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