ICC Report

アーティスト・トーク

「ICCビエンナーレ '99」
 関連イヴェント

「メディア・アートの行方」
1999年10月16日 ICC5階ロビー



「ICCビエンナーレ '99」関連企画として,メディア・アーティスト前林明次によるレクチャーと「ICCビエンナーレ '99」入賞アーティストによるディスカッションが行なわれた.

第1部は前回のICCビエンナーレで準グランプリを受賞した前林が新作《Sonic Interface》を中心に作品制作に関する報告を行なった.

もともと前林は,多くのメディア・アーティストが視覚表現を重視した作品を制作しているのとは対照的に,聴覚を主体とした表現にその興味と関心を置いて制作を進めている.とくに自己と他者の関わりや自己と他者とを分かつ境界領域におけるさまざまな問題を,音をめぐる表現において探究しようとする試みはユニークなものと言えるだろう.

今回この講演で触れられた新作《Sonic Interface》は,名古屋の「アートポート99メディア・セレクト」で発表された作品で,外界の音をさまざまに分節化し,その音をヘッドホンを通して再び体験者にフィードバックし,外界と自己の関係性を問うものである.例えば,この作品のパートの一つに,音が現実の時間から徐々に遅れて聞こえてくる部分がある.ここでは,音の時間が過去にずれていくことによって,未来の空間のなかに自身が取り残されるような体験をすることになる.このとき体験者は,普段経験することのできない時間の流れを,自己の存在する空間と知覚された音のずれとして,リアルに体感的に感覚することになる.この作品を体験する映像を見せながら行なわれた講演は,多くの参加者の興味を引くものとなった.

第2部では,「ICCビエンナーレ '99」のグランプリ受賞者,ペリー・ホバーマン(アメリカ)および準グランプリ受賞者,エドゥアルド・カック(アメリカ),マーティン・リッチズ(イギリス)を参加者に加えて,引き続き前林とともに「メディア・アートの行方」と題してディスカッションが行なわれた.

はじめに,受賞者がそれぞれ自己紹介と今回出品した作品に関連するプレゼンテーションを行なった後,制作の方向性などをめぐり討議が進められた.カックの複雑に展開される作品の構造やそれとは対照的なリッチズのシンプルな作品のあり方,あるいはメディア・アートの世界を広げるための方法論や今後への期待などをめぐる議論が展開された.限られた時間のなかでのディスカッションではあったが,アーティストのさらなる努力が期待される討議であったと言えるだろう.

(小松崎拓男)

前のページへleft right目次ページへ