ICC Report

059

コンテンツ

モザイクから遠く離れて

次世代インターネット時代の
コンテンツとサーヴィス

渡辺保史
WATANABE Yasushi



 93年の終わり,最初のGUIブラウザ「モザイク(NCSA Mosaic)」を使って訪れることができたウェブサイトは世界中を見回してもまだほんの数十にすぎなかった.それから6年近くが経った現在,サイトの総数は数億にまで増殖し,そこで展開されるコンテンツもサーヴィスもまたきわめて多様化してきた.この5年で,あの「素朴な」モザイクからあまりに遠ざかってしまったことを,誰もが実感せざるをえない.

 では,これから5年先,10年先のインターネットは? こう問うのは簡単だが,じつのところ次世代のコンテンツやサーヴィスの姿を予測するのは容易なことではない.それは,電子メールとネットニューズ,FTP(File Transfer Protocol)が利用の中心だった一昔前のインターネット・ユーザーに,現在のウェブの隆盛を予見しろというのに等しい.しかしながら,未来への萌芽は,すでにわれわれの周りに散見できる.HTMLに代わりウェブの可能性を広げるXMLの台頭,ストリーミングやダウンローダブルなコンテンツ配信,携帯電話やPDAからのネットアクセス……等々.10年先から回顧すれば,現在はモザイクの出現に匹敵するようなインパクトが同時多発的に起こった時期として捉えられるかもしれない.

 ここではまず,現在見られる新しい動きをいくつかのトピックスに整理しながら,次世代インターネットへ向けてコンテンツやサーヴィスがどのように進化していくのかを展望してみたい.

HTMLよ,さらば

 インターネット・コンテンツの未来として最も近い位置にあるのが,ウェブサイトの進化形だろう.

 ウェブの基本的な構造は,じつのところモザイクの頃とそれほど大きく変化してはいない.ウェブを構成する三つの要素――HTML,HTTP,URL――は依然としてこのオープンなシステムのコアとして機能しつづけている.

 しかし,XML(eXtensible Markup Lan-guage=拡張マークアップ言語)の出現は,いよいよHTMLの時代の終焉を告げているかのようだ.99年2月,W3C(World Wide Web Consortium)[★1]に標準規格として認定されたXMLは,簡単に言えばコンテンツを含むXML文書インスタンスと,そのコンテンツに用いられるタグを定義するDTD(Document Type Definition)で構成される言語.これにより,情報の構造化が容易となり,構築されたデータベースから,情報を多様なインターフェイスに出力することが可能になる.SMIL(テキストと映像,音声の同期をコントロールするマルチメディア・コンテンツ再生用の言語)やVXML(XMLで記述されたドキュメントを音声に変換出力する言語),POIX(カーナビなどに用いられる位置情報の記述のための言語)など,XMLベースの拡張言語がそうした多様なインターフェイスを可能にする.このほか,VRMLをもとにした新しい3D技術として検討が進んでいるX3D[★2]についても,XMLとの統合がなされる.

 XMLの台頭によって,ウェブの情報アーキテクチャ[★3]としての可能性はHTMLのパラダイムを遥かに超えることになるだろう.特に恩恵をこうむることになるのが,組織内の情報共有とeコマースの分野であることは言うまでもない.アマゾン・ドット・コムなど大規模コマース・サイトでは,サイトの実体はデータベースそのものであり,XMLの導入へ動くのは不可避の流れとなっている.実際,アマゾンがさきごろ買収したJungleeはXMLを使って複数のコマース・サイトなどから収集したコンテンツを一つのデータベースに統合し,検索できるインターフェイスを備えている[図1].

 さて,XMLベースの次世代サイト構築においては,情報アーキテクチャ,あるいは情報デザインと呼ばれる発想と方法論がますます重要となってくる.しばしば指摘されるように日本のウェブ・デザイン界は,表層的なページ・デザインは存在していても,その情報アーキテクチャを理解したうえでユーザビリティに富んだサイト・デザインを指向しようとする取り組みはまだまだ稀である.合衆国でウェブが社会的に定着してきた背景には,個人の情報処理スキル向上のためのさまざまな教育・実践があったこと,紙の時代から連綿と続くドキュメンテーション文化の定着,そしてインターフェイス改善のためのユーザビリティ工学[★4]への注目,といったことが絡み合っているが,これらの重要性は次世代インターネットの時代になっても変わることはないだろう.

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