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「ニュー・メディア ニュー・フェイス」01展 |
「ニュー・メディア ニュー・フェイス」01展は,若いアーティストが他のギャラリーなどで既に発表した,メディアを意識した斬新で興味深い発想をもつ佳品に,ICCでもう一度発表の機会を設け,より広い観客への紹介を企図された新シリーズ展である. パトリック・マルティネズは,フランスと日本で制作された5本のヴィデオ・ワークスとインスタレーション《炎》を出品した.彼のヴィデオ作品の特徴は,「日常的な音の響き=ノイズ」と「光」へのこだわりにある.その特徴は,例えば《階段》の使用法の実践のように,外部の環境を記録するだけではなく,世界への具体的=身体的な働きかけにある. 表現性は,微細な部分の変化をメディアを通してより強調することで高められている.例えば,手書きと消しゴムによるアニメ《消しゴムで》は,画面の枠をうまく利用してスケール感を出している.また《炎》では,通常の写真ではなく,黒く塗られたガラスを針で削り出したものが拡大投影され,そのスライドが交換するときに発する小さな雑音がエフェクターとアンプで変換=増幅されている. また,彼が,「私の作品《炎》は,展示とともに終わるのではなく,展示とともに始まるのだ」として,ミュージシャンにアプローチし,ほぼ1秒間隔で投影される 《炎》をメトロノーム代わりに実験的な音楽コラボレーションを,会期中3回行なった(1回目:中村草介氏,2回目:古舘徹夫氏,3回目:古舘氏のバンドAutrement quetre).彼は,演奏シーンを手持ちのヴィデオ・カメラで撮影し,ときにプロジェクターを扇回=スライドさせて《炎》の「映像」を演奏者に浴びせかけた.記録された映像は,いずれ編集され作品化されるかもしれない. もう一つの出品作品,シモガワケイの《系譜》の空間は,実際にメトロノームの1秒間隔の音が常時環境音となっている.その壁面に配置された81個の二次元マトリクス・シンボル(バーコード)をバーコード・リーダーをもった観客が読み取る.各マトリクスに蓄積された,速度の異なるメトロノームの音のデジタル・データが読み取られ,アンプとスピーカーを通して展示空間へ反響しはじめる.2台のリーダーは,継続間隔20秒間まで2人の読み取る音を次々に共鳴させる. 音は緩い間隔やハイ・テンポで始まったりするが,共鳴しだすと,次第に工事現場のようなノイズとなってカタストロフ的様相を示す.変換された音は強制的に同期させられ,オシロスコープを経て中央のモニター上にアナログの波形として現われる. この空間は,他者との音の共有を単に美的で予定調和的なものに還元することなく,破綻さえ感じさせるものであった.他者と共有する生活空間が本来的に不確定で開かれたリアルな場所であり,その強制的に同期させられる相互作用空間こそが,ときに暴力性を露わにしてしまっているのだ.ただし,注意すべきは,デジタル機器と異なるわれわれは,データを明晰判明に読み取らずに曖昧に感覚していること,つまり,その都度リアルな現象=出来事に直面しつつ,事後的に音の質を体験している事実である.われわれの認知しえぬレヴェルでデータを勝手に読み取ってくれる(しまう)デジタル機器が普段は隠蔽している,日常の畏怖すべきリアルさ,すなわち,常に「現在」へ直面させつづける空間をこの作品は,その同じ機器によって開いているのである. [上神田敬] |
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