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ヨーク・デル・クノッフェル展 |
ヨーク・デル・クノッフェルは1962年旧東ドイツ,ポツダムに生まれ,現在は主にニューヨークを拠点に制作活動を行なっている.もともと写真家として作品の制作を始めたが,近年は写真やヴィデオを使ったインスタレーションをヨーロッパやアメリカで発表し,注目されている. 今回,ICCで発表されたのは,ヴィデオに記録されたミュージシャンの演奏を,同時に12面のスクリーンに投影して構成する,オーケストレーションの新作ヴィデオ・インスタレーションである.
12面のスクリーンに映し出される映像と音楽は,それぞれ東京,ニューヨーク,ベルリンという異なった空間と時間で記録されたものである. これらの記録されたそれぞれの演奏は入念にチェックされた後,全体の構成を考えながら,12のスクリーンごとに編集が行なわれる.一つのスクリーンには2人から4人のミュージシャンが1人ずつ順番に演奏していく場面が,何もないブランクをまじえて編集されており,会場ではこの12の映像と音楽が同時に流されることによって,一つのオーケストレーションが実現されているのである. しかも12のスクリーンは,全体の演奏時間が同じではなく,それぞれ少しずつ録音時間を変えてあるので,各スクリーンのシークエンスが繰り返されるごとに,相互の演奏の重なりが微妙に異なっていく.このため,その演奏は実際の生演奏のように,常に新しいインプロヴィゼーションとして展開された. ここに参加したミュージシャンは全部で31人であるが,ジャンルも異なれば,演奏する楽器も日本の伝統的なものから現代の電子楽器までさまざまである.唯一共通するのはたった1人の即興的な演奏が展開されているということぐらいであろうか.それぞれはまったく個別の演奏であり,全体はほとんど偶然的な組み合わせにすぎないのだ.しかし,この断片的で,異質な演奏が,あたかもその場で行なわれている全体としての即興的演奏であるかのように思えるのは,クノッフェルのサウンドに対する鋭い感覚と全体を巧みに組み上げる構成力による. 一方,映像はどのような役割を担っているのだろうか.動きのない固定された視点で捉えられた映像は,ヴィデオであるにもかかわらず,ほとんど写真のポートレートのように見えた.つまり,これらの映像から音楽的要素を省くと,スチール写真そのものであり,集積された個人の視覚情報なのである.いわば,この12のスクリーンに投影されたヴィデオ映像は,瞬間ごとにシャッターを切りつづけている,ミュージシャンのポートレートにほかならない. 今回ICCにおいて発表された《gene ration time factor》で,作家はこれまでと同様に個人や個人のアイデンティティ,あるいはコミュニケーションの問題をテーマとして追求している. [小松崎拓男] |
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