特集: 音楽/ノイズ--21世紀のオルタナティブ オペラ/インターネット/ノイズ |
共生
坂本――で,1999年にやるオペラということで,ちょっと大上段なんですが,20世紀の総括という視点と,20世紀音楽の総括という視点でやるつもりなんです.僕なりの総括をすると,20世紀は殺戮と戦争の世紀であったと思っているんですね.だから,「殺戮の20世紀から共生の21世紀へ」という,浅田さんによる非常にコマーシャルな,キャッチーなコピーもあるんですけど(笑). 具体的なストーリー(かどうかはわかりませんけれど)はまだまだこれから先なんですね. 坂本――そうですね.一つのアイディアとして,ある人物に照明を当てて20世紀というものを総括するというのがあります.いま考えているのは,オッペンハイマーという人です.例の原爆のマンハッタン計画のリーダーです.彼が所長をしていたロスアラモスというニューメキシコにある研究所,いまで言えばサンタフェ・インスティテュートみたいなところですね.そこでさまざまな今世紀の先進的な研究が行なわれた.その辺を描けば,20世紀の知のある主要な部分は描けるわけです.しかし,これはまだ一つのアイディアですが…….もう一つのアイディアは,《f》のときの「Untitled 01」という曲の4楽章で,何人かの人に「救済とは何か」ということをインタヴューした音と映像を,あるいは他の素材,テープとかテクストとかのマテリアルを音楽に組み込んで使ったんです.それが手法的にはかなり気に入っていまして,今回も使おうと思ってます. いろいろな方にインタヴューされているということですが,それはオペラ作曲の一環としてなんですか. 坂本――そうです.それは言語的にはある意味をもったメッセージなんだけど,音楽として使う.意味的に捉える人はそれはそれで面白いし,音楽にもなっているという,中間的な,一種メディア・アート的なものですよね.というわけで,共生というテーマ,20世紀から21世紀へという部分,インタヴューを使うという手法,それからテクノロジーの部分,まあインターネットですね,さっき言った遅延という部分,それをどう利用するか,その遅延をどう制御するか――というように,いろんなレイヤーがあるんですよ. その遅延の技術については,だいたいさきほどお話しいただいたことくらいでしょうか? もう少し話していただけるのであれば……. 坂本――いや,あんまりそれを言っちゃうとタネ明かしになっちゃう(笑).それと,これから技術も考えていくんですよ.1年ちょっとしかないんですけども.3点使うと円ができますから,地球上の3都市を結んで,何か地球を感じられるような使い方を…….何をやるか,どう取り込んでくるかということなんだけれど,せっかくですからそれを利用するときに地球を感じられるような,何か遠隔地と時間を共有している,ちょっとズレていて,遅延があるけれども(笑),同じ環境を共有しているという意識の目覚めというようなことを,そこで表わせたらいいなと思っています. 3か所というのはニューヨークと東京と,あともう1か所はどちらで? 坂本――現在,回線の状態によって,どこにしようか考えています.なんか国レヴェルのおおげさなことになりそうです(笑). そう言えば,今度ICCでインスタレーションをされるそうですね. 坂本――いま企画中ですが,それもやはり,ある情報が地球のどこからか東京にあるICCに飛んできて,ICCに置いてあるピアノが鳴るという,地球を感じるようなインスタレーションにしたいと思ってるんです.インターネットが発達したことによって,地球意識みたいなものが少し変わったのかな.空間の距たりというのが一挙に縮まりましたよね.なくなったに近い. |
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