特集: 音楽/ノイズ--21世紀のオルタナティブ
オペラ/インターネット/ノイズ

インターネット
音楽と実時間のテクノロジー

昨年の《Ryuichi Sakamoto Playing the Orchestra "f" 1997》で,オーケストラとインターネットという実験をされたわけですが,その延長で,例えばニューヨークにオーケストラがいて坂本さんが日本にいて,それで一緒に演奏するとか,そんな試みを坂本さんはいかにもやりそうな感じがするのですが…….

坂本――それは「実時間のテクノロジー」と言うんだけれど,まさにそれを来年やる予定のオペラで追求しようと思っています.その件についてWIDE(Widely Integrated Distributed Environments)の村井純先生などと相談していていますが,理論的には不可能です.ただ,結果として,聴衆にはそう見える(聞こえる)という方法はあります.例えば意図的にズラして,合わせてあげて,聴衆に出すということはできますよね.子供のときに「光は1秒で地球を7周半する」とか教わって,ものすごく速いイメージだったんだけれど,いま考えるとものすごく遅いんですね.光ってこんなに遅いのかってびっくりするほど.で結局,地球一周は電子のスピードでだいたい130ミリセカンドなんですけれども,ミリセカンドは1/1000秒ね.それってね,いまの普通のポップスの16分音符1個分ですよ.16分音符1個演奏がズレていたら気持ち悪いし,間違いだって思いますよね.耳ってのはそのくらい精度がいいということなんだけど,だから光を超えないと無理ということです.

そのための作曲方法というのはあるわけですよね.どうやってやるんですか?

坂本――秘密です(笑).繰り返すと,東京に僕がいたとして,いまここでこういう音を出したいというとき,ジャンとやるでしょ.そうするとどんなに速くても,だいたい130ミリセカンドぐらい遅れてニューヨークなどに届くわけですよね.で,ニューヨークにBというプレーヤーがいて,坂本が東京で発した音をそれだけ遅れて聞いて,それに対して何かやる.で,Bという人が反応して弾いたことが東京に返ってくるのに,また130ミリセカンドぐらい遅れるわけですよね.それでまた聞く.行って返ってきて反応する,次のことをするのに8分音符1個ぐらい遅れてるわけ.だから絶対に騙しきれないんですね.と言いながら来年やるんですけど(笑).

ズレてもいい曲を作るんですかね.ズレても気持ちいいというか.

坂本――うん,それが一つの方法ね.ズレを活かすような音楽を書くか,どうせズレるんだったらもっとズラして,最後に聴衆に出すときにこっちはこのくらいズレている,あっちはこのくらいズレている,それを同じぐらいズラして出してあげる,という2通りの方法しかないです.



オペラ
20世紀の総括

さきほども話題に出ましたが,いま作曲されているというオペラについて伺いたいと思いますが…….

坂本――これは来年の9月,日本武道館でやる予定です.映像は高谷史郎さんで,CGの部分が原田大三郎さん.構成とかストーリーに関しては,村上龍氏と僕と浅田彰さんの3人で考えながらやっているところですけれども,いまの時点で言えることで言うと,あまりストーリーらしきものはありません.オペラだから最低でも2時間ぐらいはかかると思うんですけど,大まかな流れはあるんですが,いわゆる「愛」だとかさ,そういうはっきりしたストーリーはないですね.まあ,さまざまなコラージュになると思います.オペラって言ってるけども,僕はオペラが好きじゃないんですよ.特に昨今行なわれている,ICCの隣でやっているような日本の新作オペラとかありますよね(笑).聴いたことはないですけど,多分5秒といられないんじゃないかと思う.歌手が演技するなんていうのは,アホらしくて観てられないですよ.だいたいイタリア語で歌ったら日本人にはわからない.で,日本語でやったらもう,日本語だっていうこともわからないような歌い方されちゃうし.変なもんですよ,あれは.

オペラは何語で上演されるんですか?

坂本――多言語でやりたいと思ってます.なるべくたくさんあったほうがいいんだけど,僕が理解できない言語では書けないので,まあ,日本語と英語と,もしかしたら一夜漬けでイタリア語とかもあるかもしれません,作曲する部分はね.ただ,いろんな映像素材がふんだんに使われる予定なので,いまのところ,いわゆるオペラ歌手がステージに出てきて歌うかどうかさえも,作ってる本人はちょっと疑問なんです(笑).仮にオペラ歌手がいたとしても演技はしてほしくない.しかし,そうだとすると視覚的にはおもしろくないから,ディスプレイ上にさまざまな映像を映す.オペラって言うと,舞台デザインも普通の人は楽しみにするわけですが,それも僕はあんまり好きじゃないんです.舞台上に森を作ったりさ(笑).たまんないですよ.だからディスプレイ上の映像で舞台も背景も作ってしまう.そういうわけで,動きは少ないんだけど,いろんな現象は起こっているというものですね.

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