特集: 音楽/ノイズ--21世紀のオルタナティブ
オペラ/インターネット/ノイズ

デジタル音楽流通
インターネットと著作権

最後に,著作権の話もお聞きしていいですか? 最近,JASRAC(日本音楽著作権協会)のことで朝日新聞に寄稿されましたが.

坂本――いままでの話にも関係ありますけど,インターネットというのは単にメディアが一つ増えたというのではないような気がするんです.つまりレコード盤があって,CDになって,インターネットもでてきた――というふうに著作権管理団体の方々は捉えていて,「新しいメディアができたから,当然ここもオレたちが管理すべき場所だ」と思っているんですよ.「当然われわれは介入しなくちゃいけない」と言っている.そこでもう意見が分かれちゃうんです.

 このあいだの寄稿は,JASRACの管理母体である文化庁の著作権審議会に出席して自分の考えを述べたことを報告しただけなんですよ.それはなんの効力ももたないです.そういう審議会は毎週のように行なわれていて,いろんなゲスト・スピーカーが呼ばれて意見を述べたりする.それだけのことなんです.ただ,世の中にはそういう主張もあり意見もあるということが,お上のやっている場でしゃべれるようになってきたというのは,やっぱり大きなことだと思うんですが,次のステップとして,僕も管理を委託しているJASRACに直接行って,自分の主張を述べようと思っています(7月2日に実際JASRACに行って「要望書」を手渡してきました).

 音楽の著作権は,演奏権だとか,細かいものを入れると七つぐらいに分けられるんですね.で,JASRACのルールだと,どれかだけJASRACに委託して,あるものは委託しないということは認めてないんです.全部の権利を委託するということです.それが彼らのルールなので,それに同意する人はやってもらうということですね.だから,ここで新たにネットに関する権利が増えたとき,それだけ切り離すということはJASRACの根幹に関わることなので,彼らとしては絶対に認めたくないんですよ.それを認めろって言ってるので,大きな対立になっちゃうんですね.で,簡単な解決法は僕が辞めちゃえばいいんですよね.「意見が合わないから,辞めさせていただきます,もう管理を委託しません」って.でも,それで僕も困ることはあるんですよ.TVとかいろんな従来の著作権を,僕一人で管理するのはたいへんですからね.でも,他に頼もうと思っても,日本国のなかでは一団体しか認められてないんです.常識で考えると独占禁止法違反としか思えないんですが,それがまかり通っている.だから,やめちゃっても僕も困るので,ここはやっぱり認めてもらうというのが大切なんですよね.

 いままでの既成の権利に関しても,個人でできないことは大きな団体に委託するのは当然だけども,個人でできることは自分でやってもいいんじゃないっていうことが認められればいいわけなんですよ.ネットに関しては個人でできることなんだから委託しませんよ,だけどこれに関してはやってくださいよ,そのかわり手数料は払いますよと.それが普通じゃない.当然ネット上に関しても,一企業としての著作権管理組織ができるはずだと思ってます.で,ネット上というのはどこか一国の法律に則ったものであるべきではなく,同時に一つの組織だけが独占しないためにはそのような企業または組織が複数なければならない.それによって競争原理が働く.するとプライスは下がり,サーヴィスが向上し,ユーザーにとっては都合がいいというのが僕の論旨です.

 インターネットのいままでのメディアとのいちばん大きな違いは,いちばん最初の議論に戻りますけど,アナログとデジタルの問題ですね.いままで,音楽という情報をモノに乗っけて売っていた.だからモノを生産し,管理し,運搬し,売るための会社ができ,そうしたレコード会社とかレコード店とかが支配権というか,権力をもつという状態が,複製技術が発明されてからずっと続いてきている.で,インターネットが登場してはじめてそれが逆転するというか,音楽は音楽を作った個人のもので,モノをあつかっている人間たちの媒介なしに直接ユーザーに届けることができるということで,非常に革命的だと思うんです.ですからネット上で,いままでのモノの住人たちに「オレたちに権力がある」と主張されても困るわけです.「キミたちはモノの世界でやっててください」ということですね.もちろん,JASRACがネットに対応した新しい管理方法を作り,選択肢の一つとしてわれわれユーザーに提供するのであれば,それを否定するつもりはありません.


[1998年6月18日,ICC] photo:大高隆

さかもと・りゅういち
1952年東京生まれ.東京芸術大学大学院修士課程修了.78年,細野晴臣,高橋幸宏とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成.「テクノ・ポップ」の代表者として,日本のロック・ポップ界に大変革をもたらした.83年のYMO散開後,音楽・映画・出版・広告・インターネットなど幅広いメディアで活躍.とくに,《戦場のメリークリスマス》《ラストエンペラー》(アカデミー賞最優秀作曲賞受賞)などの映画音楽作曲家として国際的にも有名.その他,バルセロナ・オリンピック開会式テーマの作曲,全国ツアー《f》の展開など.

たなべ・みつる
講談師,美術史家.米国ハーヴァード大学で美術史を専攻.15か国で美術史を研究.帰国後本邦初の英語による創作講談「英学の曙」などを披露.評論,エッセイ,講演など.6か国語が堪能

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