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ロジャー・ペンローズ+
佐藤文隆 |
佐藤文隆――昨晩は私の還暦パーティでスピーチいただきありがとうございました.その中で,日本文化と日本固有の技術について興味深い言及をなさいましたが,なかなかおもしろいお話だったので,もう少し詳しくお話いただけませんか. ロジャー・ペンローズ――昨日,妻といっしょに京都のお寺を見学しまして,そこで,木の組み方がきわめて正確なことに大変感動しました.単に正確というだけではなくて,組み合わせ方がじつに繊細で美しい.美しく芸術的で,しかも正確であること,これこそまさしく日本の技術だと思いました. 佐藤――お寺の名前を覚えていらっしゃらない? ペンローズ――確か“G”の音が入っていたと記憶していますが……. 佐藤――銀閣寺ですか? ペンローズ――多分そうでしょう.庭園があって,小さな丘の周りをめぐるようになっています.木立があって苔が生えていて,それから砂が波のようなかたちに整えられていて……. 佐藤――海ですね?
ペンローズ――ええ,海を模したものだと思いますが,それが純然たる直線だけで表わされているんです.それから,天辺が平らな円錐形になっている砂を積んだ小さな塚があって,その周りを回ったり,部屋から眺めたりしました.一昨日は,その同じ寺でお茶の儀式があって,そんなわけで何度も建築そのものを目にする機会があった次第ですが,とにかく繊細で正確で……. 佐藤――そんなことは気にしていないんでしょう(笑). ペンローズ――日本ではどこでも,これ以上はないというほど正確で厳密で……(笑). 佐藤――TVのデザインにしてもそうですね.いまはともかく,少なくとも10年前のソニーのTVなど,おそろしく厳格なかたちをしていました.ブラウン管を初めとする部品も壊れない.日本人は細部にまで細かく気を配るんですね.京都の古いお寺の庭園でさえそうです.これに比べると,例えばイギリスの大邸宅の庭はおそろしく広大でしょう? ペンローズ――そうですね.一方,日本の庭園はどこもきわめてコンパクトにできている. 佐藤――コンパクトだが何もかもが入っている.海や山や岩さえもが. ペンローズ――風景までが正確無比だ,と. 佐藤――そこが決定的な違いですね.日本では伝統的に部分だけではなく,全体で表現します. ペンローズ――なるほど. 佐藤――昨年の10月にイギリスに行って,クリストファー・レンに大きな関心をもちました.ニュートンの友人だった人ですね.じつは,それまで,レンがあれほどの大建築をいくつも造っていたということを知らなかったもので……. ペンローズ――最も有名なのは,セント・ポール大聖堂ですね.オックスフォードにもいくつかレンが設計した建物があって…….レンはオックスフォードのウォダム・カレッジにいたんですよ.レンは科学者で建築家でした.
佐藤――建築というのは,設計の過程,細部において正確でなければなりませんが,同時に構造全体もきわめて重要です.小さな部分を寄せ集めるだけでは全体はできません.本当にたいした仕事です!(笑) ペンローズ――そうですね.物理学には,全体として見た場合,当然ながら一つの統一性がなければなりません.日本の建築にはそうした感触があると言っていいでしょう.今日では,多くの国で「日本の建築」が見られます.プリンストンにも,名前は忘れてしまいましたが,高名な日本人の建築家が建てた建物があります. 佐藤――物理学と建築に何か通底するものがあると思われますか?
ペンローズ――物理学をやる場合,アーティスティックな価値に対するある種の感性が必要だというのは,絶対的に確かです.
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