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特集/20世紀のスペクタクル空間


動き始めたアンビシャスなノードたち ちょっと未来しにいく?/太田佳代子

 電話の発明が電話ボックスを生み,映画が映画館を生み,テレビがお茶の間を変えたように,デジタル・アートという新しいメディアが新しい空間を生み出している.これまでのミュージアムでもない,単なる研究機関でもない,そのふたつを合わせたものに創作活動を足した,マルチ機能の文化施設である.この新しい空間をひとことで表わす言葉は,まだない.

 それらは今のところヨーロッパに集中していて,ここに紹介する5つのうち3つは,パリ,ロンドンといった大都会ではなく,どちらかというとこれまで印象の薄かった地方都市に存在している.そしてそこには共通のシナリオがあるように思える.

 たとえばオーストリア・リンツ市のアルス・エレクトロニカ・センター(AEC).リンツとくれば,筆者にはチョコレートしか思い浮かばなかったのであるが,アルス・エレクトロニカという電子芸術のお祭りが今やリンツの新しいアイデンティティとなっていて,昨年このインテリジェントな文化施設が完成した.その背景はこうだ.

 80年代半ば,斜陽の重工業を抱えて深刻な不況に喘いでいたリンツ市は,都市の経済構造を根本的に変えようと,徹底した政策変換に踏み切った.そして実際ヨーロッパの多くの都市がそうしたように,文化と先端産業をテコに,無名の地方都市から個性ある国際都市への変身を図ったのである.AECはこの新政策の一環である「リンツ・デジタル都市構想」によって生まれた.デジタル・アートとテクノロジーを融合させる新型の文化施設は,国際的吸引力,文化・産業の振興,住民参加といった自治体リンツの課題を一挙にクリアしてくれる,ウチデノコヅチなのである.

 ドイツ・カールスルーエ市のZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディア・テクノロジー・センター)も,フランス・トゥルコワン市のル・フレノワ国立現代アート・スタジオも同じくパブリックの機関であり,リンツと同じようなバックグラウンドを持っている.こうしたパブリックのイニシアティヴによる新しいタイプの文化施設に,デジタル・テクノロジーの開拓を担う国際的企業のサポートを取り込んで,都市の活性化を図るという構図はアメリカにも日本にも見当たらない.

 一方,アムステルダムのモンテビデオとプラハのソロス現代アート・センターは,上の3つとはある意味で対照的だ.後者が自治体ないしは国というオーソリティによってできたのに対し,個人のイニシアティヴからスタートした自発的な組織だからである.とはいえ,メディア・アートとテクノロジーを相乗効果的に育てていこうという目的は変わらない.

 活動を開始したばかりの,あるいは正式にはこれからオープンするこれらの機関が,実際どれだけのインパクトと生命力を持つことになるのか,果たして国際的な先端企業が真剣に投資するだけのポテンシャルを提供することになるのかどうかは,今はまだ未知数だ.しかし社会的なリアリティと存在意義が広く認められるようになれば,こうした機関はきっと急速に増え,ネットワーク化されていくだろう.そうなれば,センターとかインスティテュートといった抽象的な名前ではない,独自の呼び方が生まれることになるかも知れない.

(おおた かよこ・エディター)

ZKM

AEC

TBA

SCCA

ル・フレノワ国立現代アート・スタジオ

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