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特集/20世紀のスペクタクル空間

 

動き始めたアンビシャスなノードたち
アルス・エレクトロニカ・センター(AEC)

 アルス・エレクトロニカは文字どおり電子芸術のための国際コンヴェンションで,メディア・アート・カレンダーの要チェック・イヴェントになっている.スタートしたのは1979年.主催者のリンツ市とオーストリア放送協会(ORF)はコンピュータやインターネットが普及するずっと前から地道に頑張ってきたわけだが,晴れて今日の盛り上がりぶりである.アルス・エレクトロニカ・センター(AEC)はこのお祭りの成功を受けて,昨年秋ドナウ河畔に登場した.

 アルス・エレクトロニカの特徴は,毎年秋のフェスティヴァルと,1987年にスタートしたアルス・エレクトロニカ賞の授賞イヴェント,そしてこのAECという公共施設の活動が3本柱になっていることだ.そして,どちらかというとフェスティヴァルと賞がメディア・アートに力を入れるのに対し,AECは基本的にはメディア・テクノロジーの開発と展示に比重を置いている.

 AECには最先端のメディア・テクノロジーとアートを一般の人々に楽しみながら体験してもらうというミュージアムとしての機能と,外の研究機関やギャラリーと共同でプロジェクトを進める研究機関的機能,そしてアーティスト・イン・レジデンスがアート作品を制作するスタジオ的機能がある.

 まず,AECが「未来のミュージアム」と自称する5つの空間を誌上でヴァーチュアル・トリップしてみよう.

◆ログイン・ゲートウェイ
 レセプションに着いたあなたは1枚のチップカードを受け取る.これが,この施設をナヴィゲートするために必要なパスポートであり,おカネである.そう,ここは情報が貨幣と同じ経済価値をもつ社会のシミュレーションでもあるのだ.ホワイエに並んでいるコンピュータ端末にチップカードを差し込むと,未来情報空間へのログイン完了.

 チップカードは,それぞれの場所で使う情報量によってゆっくり減ったり,一気に減ったりするが,あなたの体験の仕方次第では増えるところもある.

◆ヴァーチュアル・リアリティ空間
 AECが特に力を入れているのがヴァーチュアル・リアリティ技術の開発だ.ここではヴァーチュアル・リアリティの先端技術を体験すると同時に,それらが社会でどんな画期的な役割を果たしているかを知ることができる.

◆デジタル都市
 たとえばリンツ市がいま計画している建設プロジェクトの詳細はどうなっているのか.最新データを開いて建物のデザインや有効性について考えることができる.「シムシティ」を思わせる「ソーラー・シティ」は,建築家のプランにあなた自身のアイデアをぶつけて,コンピュータ上で都市を建設するシミュレーション・プログラムだ.

◆知のネット空間
 ここは情報社会で生きるための「知のフィットネス」を鍛える空間だ.ネットワーキング,遠距離学習,マルチメディア会議など,最新のコミュニケーション環境にアクセスして,あなたは知識と体験を一気にアップグレードさせた気分になれる.

◆メディア・ロフト
 最上階に上ったあなたは,まずガラスウォールの向こうに広がるリンツの街並みとドナウ川の美しい光景に目を奪われる.さあ,疲れた頭と身体をサイバーカフェで休ませるとしよう.

◆デジタル社会のパートナーたち
 AECは経済建て直しのペースメーカーとして作られた,リンツ市の期待の星であり,未来に賭ける自治体のシンボルでもある.建設にはオーストリア政府と上オーストリア州も合計40%の助成金を出した.運営の主催者は市であり,オーストリア放送協会がパートナーとして参加している.そして,期待どおりというか,すでに12の有名国際企業がメインスポンサーとして付いている.ディジタルイクイップメント,ヒューレット・パッカード,マイクロソフト,オラクル,シリコングラフィックス,ジーメンス,エリクソン…….AECのメインスポンサー契約は,長期にわたって運営資金を援助し最新機材を無償供与していくというものだ.オープンしてまだ日が浅いがスポンサーシップ総額はすでに4億円を超えていて,これはオーストリアでも群を抜く数字らしい.

 研究開発部門ではメイン・スポンサーを含めたデジタル・メディア関連の企業,そして大学などの研究機関やギャラリーなどをパートナーに,さまざまなデジタル・メディアを開拓していく.MITのメディアラボ(ブレイン・オペラ),南カリフォルニア大学(テレガーデン),イリノイ大学シカゴ校(CAVE),リンツ大学とはすでにプロジェクトが始まっていて,ニューヨークのパフォーミング・アート・スペース「キッチン」と組む話も進んでいる.

■AECホームページhttp://www.aec.at

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