目次へ

特集・サイバーアジア


台湾 多チャンネル化事情とメディア文化 「アジア随一のケーブル・テレビ(CATV)普及率を誇る国」と言われている台湾.多チャンネル化の進展と,人々の受けとめ方,そして,いま,このニューメディアをめぐって何が起こっているのだろうか.

 現在,台湾では150以上[★1]のCATV局があり,328万以上の世帯が加入し,平均60以上のチャンネル数で一般家庭にサービスが行なわれている.公称普及率はすでに65%以上という.放送の内容は各国の衛星放送(NHK,BBC,CNN,Discovery Channel,STAR TVなど)をはじめとして,地元の自主制作番組やパッケージ・ビデオテープ(自国で制作したものや外国から購入したドラマ,映画,アニメなど)の再放送や株式市場/金融情報,天気予報のリアルタイム放送,電話回線を通じて行なうテレビゲーム,カラオケ,星占いなどを含めており,視聴者の選択肢の多様性に富んでいる.しかも,衛星放送や地上波放送と違い,ほとんどが24時間サービスで,蝕による休止,あるいは定時的な休止など全面的な放送中断はなく,誰でもいつでも世界ニュースや各種の娯楽番組を楽しむことができるのである.

 こういった多チャンネル化の発展は1980年代後半以降弾みがついたという.もともとアメリカや日本などと同様に,CATVは1960年代に地上波テレビ3局の難視聴解消策のための地域再送信装置として生まれたものだが(当時台湾では“共同アンテナ”あるいは“公共アンテナ”と呼ばれ,もちろん合法的なものであった),それに地上波再放送以外のサービスを加えれば,“違法的な存在”とされた(というよりも“非合法”のほうがふさわしい.当時の放送通信政策では,まだこのニューメディアに対応できる規範が整備されていなかったのである).1980年代後半,一般家庭でもアンテナを設置して衛星放送を直接受信することが許可されてから,人々は,政府,与党寄りの色彩が濃く,言論などの規制も強かったという,これまでの地上波テレビ3局だけの状況には飽き,より多様な内容を求めるようになった.

 しかし,衛星放送の直接受信はコストが高かったため,当初,自らアンテナを立てることのできる家庭は,英語,日本語が通じる高級知識者や教授,医者,商業界のビジネス関係者などに限られていた.一方,当時台湾もちょうど高度経済成長期に入りつつあり,国民所得も増加した.そのためCATVは衛星放送より安い料金,しかもより多くのサービス内容,自由な言論表現などの良い条件で一挙に各地に普及していったのである.またこれには,与党の国民党のように地上波を使って政治運動ができなかった野党の民進党,新党がその活路をCATVに見出し,バックアップしてきたという背景もある.そして1993年8月,ようやく「有線テレビ法」が可決され,CATV事業は合法となった.

 いま,この年間300億台湾ドルの市場の利権をめぐって,政党ばかりか,財団,企業集団が大金をばらまき,“席取り競争”をしようとしている.なかでも暴力団の影がちらついているという.つまり,番組提供業者(委託業者)が不正な手段を使って,システム・オペレーターに当たるCATV局(受託業者)にプレッシャーをかけて放送を強要するというのである.このようCATVの成長生態において,どこかに歪んだ放送文化が生じてくることも心配される.

 こういった政治,経済と強く関わった台湾のCATVの歩みを見て,それが台湾の特色といってもよいだろう.しかし,上智大学の音好宏氏が指摘するように,「冷戦構造の終焉と台湾の高度経済成長といった過程で,大陸の中国との対決の構図から脱却し,自国によって立つ文化的なアイデンティティが求められている」.きわめて積極的に外国文化を受け入れてしまうこの土地で,いかにして“台湾のアイデンティティ”を見出すのかは,今後,台湾の人々の共同課題にほかならない.

■註
★1――台湾のCATV局数は1993年に申請開放以来,各地の業者間の吸収,合併によって,当初の300局以上から1996年現在は150局にまで減少した.台湾は面積が小さく,経済利益を考慮すると,将来この業界の地域統合の傾向が続き,26区の地域区分において,それぞれ一つの大きなCATV局(システム・オペレーター)となっていくという見込みも強い.そうすると,統合的かつ整備された地域社会の情報インフラとしてはメリットは多くあるが,事業の独占などによるデメリットも生じる可能性がある.いま,政府の公正な態度に期待するほかに,多くの法人団体,学界,NPO(非営利団体)などの団体も今後CATVのあり方に取り組んでいるところである.

(フー シャオピン・社会情報学)



go top