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特集・サイバーアジア


中国 国営企業のケーブル・テレビ発展の行方 image

 改革・開放政策が実施されてから十数年が経った今日,これまで中国の経済発展を牽引してきた国営企業は転換期を迎えている.景気低迷の企業が続出し,なかには倒産寸前の企業も出ている.こうした情勢は放送メディア,とりわけケーブル・テレビ(CATV)の発展にどういった影響を与えているのか.逆に言えば,これまでは国営企業の従業員やその家族(その多くは企業の周囲の公団住宅に住んでいる)は,CATVを無料視聴できるなど多くの実利を得てきている.企業の不振は無論こうした既得利益にも大きな影響を与えている.

 限られた枚数では,中国全土の国営企業の状況を紹介するのはむずかしいため,中国東部の江蘇省にある中国鉄道部所属の大型国営企業「戚墅堰機関車車輌工場」を例にとって見ていきたい.

企業におけるCATV

 中国のCATV加入者の大多数は企業に所属している従業員とその家族であると言われている.CATVが大きく発展を遂げたのは,企業の景気がよかった80年代後半のことである.この企業では,従業員宿舎区域のテレビの受信状況を改善するため,1982年にテレビ中継局を設置した.これはいわば難視聴対策の一環である.しかし,企業文化が発展し,文化の享受に対する従業員の欲求も高まり,それまでの中継用の1チャンネルでは十分に役割を果たすことができず,1987年に新たにCATV局を設置した.設立当初のチャンネル数は7で,国営の中央電視台(CCTV)や企業が所属している江蘇省や市の番組を中継するほか,自主制作番組も放送する.そして1992年には,チャンネルが13に増え,新設分は主に周辺の省や市に割り当てられた.

 中国では企業のCATVの視聴や利用は福祉の一環とされている.そのため,据付代,施設費,そして月間の視聴料などを全部企業が肩代わりをしている.現在この企業のCATVの利用世帯は8000戸近くに達している.

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自主制作番組

 大企業は一つの小さな社会であり,とくに中国の大型国営企業は病院をはじめ,小・中・高校,デパートなどをも管轄下においている.そのあちこちに放送の素材があると言ってよい.こうしてつくられる自主制作番組は,企業が直面する生産や経営の問題提起や,模範人物への学習運動の呼びかけなどに比重が置かれている.と同時に,受像機の画面を通して人々に喜びとやすらぎを与えなければならない.また,ある程度の教育目的も達成できなければならない.そのため,『工場のニュース』のほか『ホットな話題』『リクエスト』『科学技術普及の窓』『生活常識』などの番組がある.これらの放送時間は不定期で,平均して週4回程度,毎回30分ほどである.自主制作番組の放送終了後は,アクション映画や人気ドラマが放送される.現在のところ,中国では国外の衛星放送は受信も放送も禁じられている.

ネットワーク化による問題

 今年のはじめ,中国ラジオ・テレビ部の高官が各省,市のテレビ局に対して,条件が整えば,中央電視台の各チャンネルをCATV局に開放すると発言した.これを受けて,この企業が所属している常州市も積極的に動きはじめた.常州CATV局は各企業に対して,ネットワークに加わるように呼びかけた.ネットワーク化されると,チャンネル数はこれまでの13から一気に22に増え,また,さらに増加する可能性もある.番組の内容もより豊富で,ユニークになっていくだろう.とくに映画専門チャンネルやスポーツ専門チャンネルが人気のようである.市の受信はマイクロ波中継局を通じて行ない,また,6メートルのパラボラで衛星放送番組を受信するのに対して,企業はいまだに簡易アンテナまたは3メートルのパラボラを使用していることから,市のテレビ局の画像はより鮮明で,視聴効果も一段と向上する.

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 しかし,市のCATVのネットワークに加入すると,多くの問題が発生する.まず,チャンネル数の増加により受像機に対する要求も高くなる.全部のチャンネルを視聴できるのは,一部の新型のカラーテレビに限られるのである.
 そして,いままで企業のCATVであるため,企業の福祉予算で賄い無料であったものが,今度は行政部門である市のCATVに管理されるため,有料となる.
 さらには,いままでは,企業は自主制作番組の内容について,ある程度の主導権を握ってきたが,今後は市の指導を受けることになる.
 このように,これまで国営企業の恩恵を受けてきた従業員及びその家族がネットワーク化されることによって,挑戦を受けている.不振が続いている企業もこのことを真剣に受けとめている.常州市のこの企業も目下マスコミを利用して従業員を説得している最中である.

(リ シャンロン・社会情報学)



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