InterCommunication No.15 1996 |
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Feature |
ルーブルの現在と未来
サリー・ジェーン・ノーマン
鈴木圭介 訳
新しい映像テクノロジーのおかげで,今やまったく新しい形の美術館が生まれつつある.ヴァーチュアルな物体を詰め込んだこのヴァーチュアルな建物は,世界中の人々によって共有されるとともに,世界のどこへでも移動させることができる.直接性,流動性,デジタル的昇華を強調する現今のメディア界の動向は,われわれの側にある種の願望,つまりわれわれには自らの甚しく物質化された存在形態の制約から逃れて,マレーヴィッチが熱烈に提唱した,かの「gegenstandslose Welt」つまり「対象なき世界」へと近づこうとする欲求があることを逆に教えてくれるのである.事実,芸術作品をデジタル技術で複製したり伝送したりすることが可能になったことによって,可動性,遍在性,複数性といった考え方に基づく美学が生まれ,これは固定性,局在性,唯一性といった考え方に基づく従来の美術館概念と真っ向から対立するものとなる.そこで多くの伝統的美術館では,新しい映像技術の可能性を十分意識した上で,ハイブリッドな方法を強化する方向に向かっている.すなわち,美術館の「守護神」的所蔵品を展示保存することに加えて,強力なニューメディアと地球規模の文化ネットワークを使って所蔵作品の拡張展示を図るようになったのである.ルーヴルもそうした方向へ向かう美術館のひとつである.
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