InterCommunication No.15 1996

Monograph


決定論的方程式と逐次法

 さて,Xnを,X0aの関数として明示する{n年後の電子バッタの数を,初年度のバッタの数と繁殖率によって表わす}公式を導くことは原理的には可能である.
X 1=aX 0(1−X 0
X 2=a・aX 0(1−X 0){1−aX 0(1−X 0)}
 このような方式では,式は急速に,長く難解なものとなっていく.X 15では,約1冊の本の長さとなり,X 30{30年後の電子バッタの数}では,ある資料によれば,「イギリスの国立図書館の蔵書分の長さ」となる.ここではその実感を掴むために,S・ウルフラムのソフトウェアシステムMathematicaを使用して,例示してみよう[★5]
 X 5X 7X 10となるにしたがって,まさに爆発的に長くなり,X 10では,式がA4で10頁の長さとなった.100回繰り返して得られる値X 100{100年後の電子バッタの数}は,公式で書こうとすれば,まさに天文学的な長さの式となってしまうだろう.
 したがって,原理的には,X nは初期値と定数aによって決定されている(はずである){何年後の電子バッタの生息数であろうとも,それは繁殖率と初年度のバッタの数によってあらかじめ決定されている}が,現実的には,逐次的に解を確かめていくしかない.次々具体的に代入していくのならば,保持すべきは,過去の全歴史ではなく,一つ前のX の値だけでよいからである.
 さて,逐次計算は,コンピュータのもっとも得意とするところである.再びMathematicaを使って実験してみよう.例えば,a=2, X 0=0.4 としてそれを20回繰り返し行なう{繁殖率2で,初めのバッタの数が4000匹だとして,20年後までのバッタの数を求める}と結果は次のようになる.
0.4, 0.48, 0.4992, 0.499999, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5, 0.5
{電子バッタの数は,始め4000匹で,翌年が4800匹,……となって,数年後からは,毎年5000匹に安定したまま,ずっとこの数をとり続ける.}
 興味深いことに,a=2{繁殖率が2}の場合は,初期値にどんな値をとっても,最終的には0.5{5000匹}で安定する.
 ちなみに,初期値を 0.1と0.8で試してみよう.
X 0=0.1 の場合{最初,1000匹いる場合}
0.1, 0.18, 0.2952, 0.416114, 0.485926, 0.499604, 0.5, 0.5, 0.5, ......
X 0=0.8 の場合{最初,8000匹いる場合}
0.8, 0.32, 0.4352, 0.491602, 0.499859, 0.5, 0.5, 0.5, ……

 ところで,この方程式の振る舞いは,定数aの値,大まかに分ければ,a<1,1<a<3,3<a<4のそれぞれで,異なった振る舞いをする{バッタの繁殖率,つまり1匹あたり,次の年に何匹残すか,の値で,バッタの年毎の生息数の変化はさまざまな形を取る}.
 リターンマップという手法を使うと,グラフ上で視覚的に,X nの取る値が確認できる.また,縦軸にXの値{1を 1万匹と見做すバッタの個体数},横軸にnの値{1年目,2年目というバッタの世代を表わす}を取ったグラフも並記しておこう.この〈別紙〉の実験によって,初期値{始めにいるバッタの数}が結果に関与しない{充分後の世代のバッタの数に影響を与えない}aの領域{繁殖率}と,決定的な関与を示す領域{いつまで経っても,後の世代のバッタの数に影響を与える}領域の二つに分かれることがわかる(pp.188―189の解説を参照)[★6]
 ちなみに老婆心ながら,別紙の表や数式に,再び,電子バッタのイメージを付加しておこう.
●繁殖率0.8の場合.つまり,1匹あたり,翌年に0.8匹しか残さない場合には,最初のバッタの数がどんなであっても,最終的には,0匹に収束してしまう.少子化現象の悲劇である.
●繁殖率2.3の場合.最初のバッタの数が,2000匹でも,5000匹でも,9000匹でも,10世代程度以降は,毎年ずっと,5652匹の生息数のまま続く.
●繁殖率3.1の場合.最初のバッタの数が,2000匹のとき,充分後の世代では,1年ごとに,7645匹と5580匹の生息数を繰り返す.n年後の生息数がどちらになっているかは,最初のバッタの数による(たとえば,500年後のバッタの生息数は,初期値2000匹の時には7645匹,初期値9000匹の時には5580匹である).
●繁殖率3.5の場合.充分後の世代では,5008匹,8749匹,3828匹,8269匹の4年周期で生息数が変化する.
●繁殖率4の場合.5000年後から6000年後の生息数の様子をみても,まったく周期性も秩序もなく,ランダムな生息数の推移を示している.


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